気になるあの子の頭の中は

廊下に張り出された成績表を最悪な気分で見つめる。
上から二番目は、私の名前。その上は、「斎藤隆」。

毎年大雪の降るこの地域では、例によって今年の始業式も大雪で、SNSでは「大雪なんだから始業式延期しろ」だとか「冬休みの延長希望」だとか、生徒たちの怨嗟の声が溢れていた。
まあほとんどの生徒は、大雪だから、というのは建前でしかなくて、本当は終わっていない宿題をどうにかするために始業式を先延ばしにしてほしいんだろうなと思っている。
事実、SNS上では「宿題まだ終わっていなくてヤバい」「だれか答え移させて!」とか、そういった声をちらちらと見かけた。

でも、私には関係ない。
なぜなら宿題は冬休みが始まって三日目までには終わらせていたし、残りの休日も遊ぶことなく三学期の予習と、来年の受験のために準備を進めていたからだ。
今学期も、来学期も、完璧にテストで学年一位を取り続け、憧れの県下一番の進学校にトップで入学し、T大学に入学する。
それが私の夢だから。
周りの有象無象なんて気にしない。私は私のやるべきことをこなすだけ。
そう思っていたのに。

始業式が終わった次の日は、理解力テストが実施された。
二年生の二学期までの内容、冬休み中に出題された課題の内容を理解しているかを確認するためのテストだ。
もちろん私にわからない問題なんてなかった。
すべてのテストを20分以内に解き終わり、10分、念入りに見直しをして、余った20分は私の華麗な未来予想図を妄想して、先生の「やめ」の合図が終わるまでじっと目を瞑った。
一週間後、答案用紙が返却されて、おおむね満足いく結果だった私は、今回も一位であろう成績表を見るために、意気揚々と廊下に踏み出した。
のに、私は一位ではなかった。
一位は、斉藤隆。
斉藤隆、あの子が?
私は、私の中に表現しがたい黒い感情が渦巻いていくのを感じた。

斎藤君はこの冬に転校してきた男の子だった。
私は別段興味もなかったので、彼に関する情報は聞いても右の耳から左の耳に流れていった。一週間前までは。
でも私の一位の座を奪ったからには、彼のことをよく知る必要があるとおもった。
敵をよく知ることが攻略の第一歩であると父はよく語っていた。
腹に重たく溜まっている黒い感情に任せて、私は彼についての情報を集めた。

情報収集の結果分かったことは以下だ。
・斎藤君は一人っ子
・東京生まれ東京育ち
・転勤の関係でこっちにやってきた
・ゲームが好き、特に、えいぺっくす?とかいうやつ
・基本的に無口だけど笑うと八重歯が見えてかわいい(らしい)

…全然まともな情報がない。


以下、彼のことを知るために近づく私
からかわれるようになる
え?私って?もしかして。恋?
みたいな展開なことを書きたかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?