家族を健康でしあわせにする愛の手
最近見た母の手は、骨がゴツゴツとしていて関節がゆがんでいる。母のお母さん、つまり祖母がリウマチだったこともあり、母はゆがんでいく自分の指を見てリウマチの検査をしたことがある。
とくに問題となる数値は出なかったものの、母のゆがんだ指を久しぶりに見て、胸がチクっと痛んだ。
母はこの手で器用にいろんな作業をこなす。
その手が使いにくいというグチをいままで聞いたことがない。それぐらい自分のゆがんだ指と上手につき合っているということだ。
母の手は魔法の手。子どものころ本気でそう思っていたことがある。
わたしがそう思っていたからなのか、母のつくる料理は、不思議とどんどん健康になり美人になるとまでいわれている。もちろん母の料理を継続的に食べている人からの話だ。
わたしの長男は統合失調症とうつ病をわずらっている。
その長男は県外でひとり暮らしをしているのだが、数年前に、療養のため祖母であるわたしの母と暮らすことになった。
疲れていた顔で帰ってきた長男。わたしの母と暮らしていたわずか半年ばかりの間に、みるみる健康的な顔色になり、生気を取り戻した長男はまた自分の住処である東京へと戻っていった。
現在祖母と暮らしているのは、わたしのすぐ下の妹の長女。姪っ子だ。
わたしの家族の家系はどうやら、心に不調をきたしやすい家系なのかもしれないと母がいっていた。
20代前半と若くかわいらしい姪っ子も、わたしの長男同様、少々統合失調症の気がある。希死念慮や幻聴幻覚といった症状。
「おばあちゃん、いまわたしの部屋をノックした?」
「いま誰かの声がしたよね?」
母と暮らしはじめたころ、そういうポルターガイスト的なことをよくいっていたという。
うつうつとしてた日も多々あり、部屋に閉じこもることも多かったという姪っ子。
ところが母の手料理を必ず一日一食は食べる。どんなに仕事が忙しくてもという母のルール。
そんな彼女も母と暮らしはじめてから約一年。肌は透き通るようにスベスベになり、顔色はよくエネルギーが満ちあふれている。
稼ぐことが好きな姪っ子は、仕事をかけ持ちして働くほどだ。それでも遊ぶ時間もしっかりつくり遊びまわっても、とてもエネルギッシュだ。
若いってうらやましい。
母いわく、最近は幻聴幻覚を見たり聞いたりしなくなっているとのこと。
それを姪っ子から聞いたわたしの長女は、
「おばあちゃんのご飯は、美人で健康になる魔法のご飯だ」といって、いとこである姪っ子をうらやましがっている。
母の料理のこだわり。
薬よりも薬なご飯。
食は体にとって直接かかわる大切なもの。だからこそ、体がよろこぶ、細胞が元気に活発になるご飯をと日々研究している。
健康食って質素であまり美味しくないイメージだったり、実際う~ん食べられなくはないけど…というものが多い。
母は美味しく食べられる工夫もこらしている。
母の一品でお気に入りなのが、母のつくるふりかけ。わたしはこのふりかけを、「きれいの素」と呼んでときどきもらいにいっている。
母の手は魔法の手。
子どものころ本気でそう思っていたが、家族を守ってきた母の手はいまも健在、いや昔以上だ。
母の手は、家族を健康でしあわせにする愛の手なのかもしれない。
わたしはそんな風になりたいと思っても、なれない。
わたしの手でできることといったら、お腹を痛がってる子どものお腹や背中をさすること。頭をなでること。大好きだよと抱きしめること。それぐらいだ。