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消えていく自分


医者に禁煙を勧められ、iQOSに変えた。

同じく禁酒を勧められ、ノンアルコール飲料にした。

看護師に言われ、デカフェのコーヒーにした。

親に止められ、タトゥーを増やすのは一旦辞めた。

客に陰口を叩かれ、金髪をやめた。

上司に諭され、引越しを決めた。

友人に止められ、不倫は辞めた。

恋人に泣かれ、死にたいと言うのはやめた。


今だってハイライトのメンソールを吸いたいし、
酒に酔いたい夜ばかり来るし、
朝イチのコーヒーがないとどうにもやる気が出ない。

本当はこの醜い体をタトゥーで埋めてしまいたいし、
髪だって何も気にせず好きな色にしたい。

できるだけ安すぎる家賃の家に住みたいし、
太陽は眩しいし、
生きていたいと思う日はない。

根本は何も変わっていないのだけれど
少しずつ、何かが変わろうとしている。
まるで自分が元々綺麗だった人間のように、
周りから強制されているかのように思う。

いつかは元々自分はこうだったのだと、
錯覚してしまう日が来るのだろうか。
もしくは今の願望が錯覚で、悪のように見える周りは正しい方向に導いてくれているのかもしれない。

しかし私は、誰も見ていなければ、バレなければ
既婚者の太陽を追い続けるし、
フラッとBarに入店し、酒に酔った勢いで
嫌がられながら紙のタバコを吸い続けるだろう。
仕事を辞めれば髪を染め、
知らない街に引っ越すだろうし、
親が逝去すれば、忘れないようにと言ってタトゥーを彫るだろう。

そんな自分を愛していたい。
タラレバでしか、自分の願望を叶えられなくなった
息苦しい人生の中でも生きれるように、
この気持ちだけは残して生きていきたい。

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