見出し画像

4列シート隣席ギャンブル

僕の出身は岐阜なのだが、帰省の際は東京から昼便の高速バスに乗って帰ることが多い。

約6時間ほどバスに揺られて帰省する。

まずまずの長距離バスなので、なるべく快適なバスを選ぶようにしている。

ちなみに、自分にとって快適なバスの基準はただひとつで、
「隣の席に他の人がいない」
ことだ。

なぜなら隣の席に人がいると気を遣うし、のびのびと座ることが出来なくなるから。

僕の理想は隣の席に自分のカバンを置いて、大股開きで地元に向かうことである。

しかし僕はいつも、隣の席に人が確実にいない3列シートのバスには乗らず、4列シートのバスに乗って帰ることにしている。

理由は4列シートの方が値段が安いから。

3列シートのバスを選べば誰かと隣席する可能性を100%潰せる。しかし4列シートの方が数千円安いため、渋々いつも4列シートを選んでいるのだ。

だが当然、4列シートを選ぶと隣の席に誰かが座る可能性が出てくる。

もちろん隣の席が売れなかった場合、または隣の席の人が何らかの理由で乗車しなかった場合、隣の席は空いた状態になる。

だが、隣の席に人がいない確率は過去の自分の統計から考えるに約30%ほど。

そのため、まずまずの確率で誰かが隣に座っていることが多い。

なるべく人気の無さそうなバスを選んでも隣の人が来ない確率は30%なので、かなり分が悪いギャンブルだ。しかし僕は帰省の際にいつも、
「隣の席に誰もいませんように!」
と長距離バスの神様に祈っているのである。

そしてその祈りが、恒例になっている。

つまり「4列シート隣席ギャンブル」を、帰省のたびに毎回行っているのだ。





20240815。
バスターミナル新宿にて。

実家に帰省するための長距離バスに乗車した。
4列シート隣席ギャンブルに参加した。

出発時刻は午前11時30分。

僕は出発5分前、午前11時25分に乗車場所に到着し、今回の賭場である通路側の3-Cに着席し、おそるおそる3-D(隣の席)を確認した。

すると3-Dは、空席だった。

僕は、
「4列シート隣席ギャンブル、第1関門突破だ!」
と心の中で叫んだ。

まず自分がバスに乗り込んで着席の段階で、既に隣席に他人が座っていたらこのギャンブルは負けである。

だからホッとひと安心。

とりあえず3-Dが空席の可能性を残したぞと。
あとは出発まで3-Dに誰も来なければ勝ちだぞと。
第2関門、突破するぞと。



出発まで残り5分。粘り切れるか。



それから約1分後の11時26分。

ある男性客が乗車してきた。

その男性客は、全身黒い服を着た、TBSの安住紳一郎アナウンサー似のおじさんだった。

僕は心の中で強く祈った。
「黒ずくめ安住アナ!3-Dに来るな!」

すると黒ずくめ安住アナは、3-Dを通過し、後ろの席に着席した。


僕は
「4列シート隣席ギャンブル!生き残った!」
と思い、胸の中で喜びの咆哮を上げた。

黒ずくめ安住アナをなんとか回避することが出来た。

時刻は11時26分。
出発まであと4分。凌ぎ切れるか。




その後1分が経ち、11時27分。

再び別の男性客が乗車してきた。

その男は、白を基調としたアジアンな柄シャツを着た、TBSの井上貴博アナウンサー似のおじさんだった。

僕は心の中で強く祈った。
「アジアン柄シャツ井上アナ!3-Dに来るな!」

するとアジアン柄シャツ安東アナは、3-Dを通過し、後ろの席に着席した。

僕は
「4列シート隣席ギャンブル!また生き残った!」
と思い、胸の中で2度目の喜びの咆哮を上げた。

アジアン柄シャツ井上アナをなんとか回避することが出来た。

そして同時に、TBSアナウンサーに似た人が連続で乗車してきた奇跡に対しても、テンションが上がって嬉しくなった。

それにより僕は、
「どうせ乗車してくるなら、次もTBSアナウンサーが乗車してきて欲しいな!」
と感じた。

だから、
「TBSアナウンサー連続乗車ギャンブル」
という、TBSアナウンサーに似た客が連続で乗車してきたら勝ちとなるギャンブルも、同時に開催することにした。





そのすぐ後だった。

TBSアナウンサー連続乗車ギャンブルが始まり、
アジアン柄シャツ井上アナが着席したその時。

バスの外から
「ありがとうございます!」
という女性の声がした。

おそらく乗務員に荷物を持ち運んでもらったことへのお礼をしていたのだろう。

その声を耳にした。

そしてその声の主である女性がバスに乗り込んできた。

しかし僕はそこまで慌てなかった。

なぜなら長距離バスでは、自分の横に知らない女性が座ることはまず無いからだ。というのもバス側の配慮によって、女性の横には女性が座るようにあらかじめ座席指定されているため、つまり女性がバスに乗りこんできても、4列シート隣席ギャンブルに負けることはないのである。

だからそこに関しては良いのだが、問題は、
「その女性が果たしてTBSアナウンサーに似ているかどうか?」
という点である。

現在僕は、4列シート隣席ギャンブルだけでなく、
TBSアナウンサー連続乗車ギャンブルも同時に行っている。

だからこの女性がTBSアナウンサーに似ていなければ黒星。

心の中で叫んだ。

負けたくない!負けたくない!
頼む!TBSの女子アナが乗車してきてくれ!

僕はおそるおそる入り口から乗車してくる女性を確認した。

すると何とその女性は、
カットソーを着た、TBSの宇内理沙アナに似ていたのであった。

僕は勝負を続けられることを歓喜した。

「よっしゃ!カットソー宇内アナだ!やった!これでまだTBSアナウンサー連続乗車ギャンブル続けられるぞ!」

カジノで賭け金が吊り上がっていくことに興奮する、イかれたギャンブラーのような心持ちだった。




そして出発の時刻を待った。



その後、



11時28分。



11時29分。


11時30分。



時は流れ、なんと誰も乗車してこないまま、出発時刻を迎えることが出来たのであった。



「やった!やった!俺の勝ちだ!4列シート隣席ギャンブルとTBSアナウンサー連続乗車ギャンブルに同時に勝つことが出来たんだ!」



そう思い、大歓喜した。

乗務員の方の人数確認も行われ、いよいよ本当に出発を迎えることになった。




しかし、その刹那、

とある男が息を荒げながらバスに乗車してきた。

その男は、白いノースリーブを着た、元TBSの国山ハセンアナウンサー似の若者だった。

僕は肩を落とした。

なぜならノースリーブハセンアナは、既にTBSを退社していたから。

元TBSアナウンサーだと、現在TBSアナウンサーではないと、TBSアナウンサー連続乗車ギャンブルには勝ったことにならない。

過去のTBS在籍歴は、このギャンブルにおいて認められていない。

厳しいルールだが、ルールはルール。
現在TBSで働いていないと駄目なのである。

僕は時間ギリギリで、TBSアナウンサー連続乗車ギャンブルに負けてしまったのであった。


悔しくて色んな想いが溢れた。


なんでTBS退社してんだよ!?
なんで現在はPIVOT株式会社の社員として一生懸命働いてんだよ!?
なんでノースリーブハセンアナ進行の、TBSで放送されていた朝のニュース番組『グッとラック!』1年半で終わっちゃったんだよ!?


もしも『グッとラック』が終わっていなければ、TBSに残り続けてくれていたのかな、、、。



悲しい気持ちになった。



しかし、問題はそこではない。

大切な問題は、自分の隣に、ノースリーブハセンアナが座るかどうか、これだった。

なんせTBSアナウンサー連続乗車ギャンブルに負けても、4列シート隣席ギャンブルに勝てれば僕的にはじゅうぶん御の字なのだ。

だから、ノースリーブハセンアナがTBSを退社したことや、TBSアナウンサー連続乗車ギャンブルに負けたことなんて、本当のことを言えば、どうでもいいのだ。

とにかくノースリーブハセンアナが、僕の横の席、3-Dにだけは座らないでくれたら良いのだ。



僕は長距離バスの神様に強く懇願した。



頼む、頼む、頼むぅ〜!
ノースリーブハセンアナ、隣の席に来るな〜!




しかし、ノースリーブハセンアナは、僕の座席の横で立ち止まり、こう話しかけてきた。

「すいません、席ここ(3-D)です、失礼します」

ノースリーブハセンアナは申し訳なさそうにしながら、ダラダラと汗をかきながら、3-Dに着席した。

3-Dは、言わずもがな僕の隣の席だった。

TBSアナウンサー連続乗車ギャンブルだけでなく、4列シート隣席ギャンブルにも負けてしまった。

一瞬で2つのギャンブルに敗北した。

賭け金は全部没収された。

ギャンブルの魔物ってホントにいるんだなと感じて恐ろしくなった。

かなり凹んだ。

そして何より凹んだのが、ここから約6時間、汗をかいたノースリーブハセンアナが真横にいる状態で、帰省しなければならないことだった。




追記。
今回のnoteは、ノースリーブハセンアナが横にいるバスの車中で書きました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?