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古典的な名作映画の中で特に好きなのが黒澤明監督の『生きる』だ。

この映画の魅力はなんといっても主人公の顔。

志村喬さん演じる主人公の表情がアップで抜かれることが多い映画なのだが、その表情を観ていると、痛々しい程に主人公の感情が伝わってくる。

喜怒哀楽の感情の中でも特に「哀」が伝わってくる。

哀しさを伴う人間の弱さが、顔面のアップ一発で説得力をもって描かれている。

そしてその顔の説得力は、演技の巧さから生まれるというより、それ以上に、志村喬さんの生き様や人間的迫力から生まれている気がする。

志村喬さんは、
きっと自分の弱さを知っている役者なのだろう。
きっと他者の弱さを知っている役者なのだろう。
きっと役柄に対して真摯に向き合ってきた役者なのだろう。

生半可な生き方をしている人間にあの迫力は出せない。
おそらくどれだけ芝居が巧いとしても。

志村喬さんの顔を観ていると強く感服させられる。

『生きる』とは僕にとってそういう映画だ。

繰り返しになるが『生きる』は、キャラクターの人間性を顔で見せつける映画なのだ。

なんといっても顔顔顔。

とにかくこの映画は役者の顔面を喰らう作品だ。







20240731。
キングオブコントの2回戦があった。

僕は「色気300パー」という即席ユニットコンビとしてこの大会に出た。

このユニット名は僕が決めたものなのだが、
「色気300パーって名前にしたんだよね!」
と周りに話すと
「は?なにその変な名前?」
と言われ、半ば僕を馬鹿にするような苦笑いを浮かべられることが多かった。

また、一緒にキングオブコントに出てくれた、「飯田の中の飯田」という芸人にユニット名を伝えた時も、
「全然ピンと来ない」
とユニット名のセンスを一蹴されてしまった。

しまいには知り合いの芸人に、
「結構ワードセンスで攻めるタイプの芸人さんだと思ってたからさ!!」
などとイヤミいじりをされる始末だった。



すこぶる評判が悪かった。

自分では結構気に入ってるのに。



とにもかくにも僕は「色気300パー」としてキングオブコントに出場した。

1回戦をなんとか勝ち上がり2回戦に進めた。

でも2回戦の出来はぶっちゃけ微妙だった。

まるでウケていない訳ではないが観客の心を掴み切れてない感覚があった。

自分の番が終わった時に
「これは駄目だろうな・・」
とすぐ理解出来た。

大会の空気に呑まれた気がした。

というか、会場に入ってから僕はずっと呑まれていた気がする。





会場入りの際に、同じブロックに出る芸人さん達と一緒にエレベーターに乗ったのだが、僕がメディアや舞台で見たことのある面白い人達がわんさかいた。

そういう人達とすし詰めになってエレベーターに乗ったので、間近で一緒に戦う芸人さん達の顔を見たのだが、そこで感じたことがある。

それは、面白い芸人、腕がある芸人の顔には味があるということだった。

みんな顔つきにオーラがあった。

人間的な魅力に溢れている顔だった。

顔の美醜に関係無く、みんな絵になる顔をしているなと思った。

顔に滋味深さがあった。

それは多分、ウケたスベったを繰り返した場数や経験の多さだったり、覚悟だったり、抱えている想いだったり、芸への自信と、自信の喪失を乗り越えてきた自信だったりなど、色んな要素が表情から漏れ出ているからだと思う。

栄養価が詰まっているから滋味深さがある。
一朝一夕では身につかない滋味深さがある。

迫力がある。





僕は会場入りの際に乗車したエレベーターの中で『生きる』を唐突に思い出していた。

演技の質を志村喬さんの人間的な迫力が下支えしているシーン。

そのシーンに映る主人公の顔面。

芸人も同じだなと思った。

芸の巧さだけではなくて、芸の土壌、人間力が豊かな人の方が、芯を食ったウケ方をすることが多い。

キャラが立っていると言われる人達や、ニンがネタに出ていると言われる人達は、みんな顔にオーラを持っている。

そのオーラが、人を魅了するんだと感じた。

僕は出番前に、カツラをつけながらトイレの鏡で自分の顔を見た時に、
「うわ、俺の顔なんか甘っちょろいわ」
と察した。

本番前、楽屋で出番順に座っていたのだが、前に座っていた1番手のドンココさん、2番手のトゥリオさん(サツマカワRPGさん、ひつじねいり松村さん、ストレッチーズ高木さんのユニット)、そして3番手の色気300パーを挟んで、4番手のサスペンダーズさん。皆さんそれぞれ顔に雰囲気があった。

なんならちょっと怖いくらいの雰囲気。

そういう方々と比べて、当たり前なのだが、ネタの精度も人間の強さも、負けまくっていた。

知名度とかに関係無く、積んできた芸の厚みが段違いに負けているから、自分の芸は、顔は、甘っちょろいのかと強く理解できた。

だから、自分の知らない芸人さんでも、
「この人の顔つきなんか凄いな」
と思わせてくれる人は面白いことが多い。

そういった人達を舞台裏で目撃しているから、またドンココさんやトゥリオさんがガツンとウケているのを舞台袖で目撃しているから、手がすくんで本番で空気に呑まれるのか。そう感じた。

とはいえもちろん、本番で空気に呑まれたのは、何も周りにいた先輩芸人さんの姿だけが原因という訳ではないのだけれど。他にも大量の要因があるのだけれど。





結論。

単純にスベって負けるならいいが、色んなことに手がすくんで呑まれた今回のキングオブコントの負け方には不完全燃焼感がある。

悔いがある。

だからまた次にこういう機会があれば、負けるにしても悔いがないように、自分の300パー出せるように、反省と準備をしておきたい。

そういう機会に出会えた時の自分がどんな顔をしているのか、今は想像もつかないが。






追記。

キングオブコントの配信があるのでよかったら見てください(僕に売上げのお金が一銭も落ちないので、ほんとに気が向いたらで大丈夫です笑)。


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