②ベビー服から決まっている
「次の検診までに、赤ちゃんの性別をあらかじめ知りたいか、ご主人と話し合って決めてきてください。」
ある日の検診で、超音波検査のあと医師が言いました。現在は赤ちゃんの3D画像も見られる時代になりましたが、私が娘を妊娠していた頃にはまだ不鮮明な画像の時代でした。よくテレビのドラマで妊婦が大声をあげ必死の形相でいきんだあと、元気な産声とともに産婆さんが「立派な男の子ですよ」とか「かわいい女の子ですよ」とか言いながら母になったばかりの人の枕元に、丸々した赤ちゃんを連れてくる、そんなシーンをうかつにも漠然と思い描いていたので、そうか、そういう時代なんだとあらためて思いました。
私も夫も、生まれるまで性別を知りたくはありませんでした。せっかくの楽しみを生まれる瞬間までとっておきたかったというのがあります。同世代の友人たちもちょうどベビー・ラッシュを迎えていました。彼らの中には、出生前に性別を知って、ベビー服とか名前とかを着々と準備している現実主義者が結構いました。しかし、私たちは「女の子でも男の子でも」うちの子だし、女の子だったらたとえば一緒にお菓子を作りたいとか、男の子だったら一緒にキャッチボールしたいとか、そういうありがちな想像をどこかで避けたいという感覚があったのだと思います。
性別を教えてもらわないことに決めましたが、それでも予定日は着々と近づいてきます。まずは、一番楽しい買い物、ベビー服を買いに行きました。赤ちゃんグッズはどれもかわいいし、輝かしい未来の象徴のようでウキウキします。夫とふたりでデパートに買い物に出かけました。けれども、思いもよらないことに困惑させられることになります。
ベビー服売り場が、きっちり「女の子用」と「男の子用」とに分けられていることにまず驚かされました。それぞれのコーナーで、色合いが全く違っています。「女の子用」はピンクが圧倒的に多くて、レースやフリルの飾りがついていたり、ワンポイントでうさぎやお人形の刺繍がついていたりします。一方、「男の子用」は、ブルーなどの寒色系。早くも迷彩柄まであり、全体的に直線的でかっこいいイメージのデザインです。ワンポイントは飛行機や車。
きちんとスーツを着こなした若い店員さんがにこにこ近づいてきて、「お子様は、男の子ですか?、女の子ですか?」と私の大きなお腹に目をやりながら聞いてきます。そうか、こういうことがあるから、大抵の人は予め知りたがるんだ、とその時妙に納得したのでした。
結婚前から大学でジェンダー文学論なども講義していた私と、哲学者の夫は、それから多少意地になって、「女の子らしくも男の子らしくもない服」を探しはじめました。始めて見ると、これがなかなかに難しいのです。シェンダーレスな色って? ということで、さまざま考えた結果、白や黄色や深緑や…。新生児にモノトーンを着せる趣味はなかったので、黒い服は買いませんでした。
この「ベビー服の色」問題は、子どもが生まれてからも続きました。ある程度の年齢まで(いやもしかしたらそれ以後も)、子どもの性別は見た目だけでは判断できません。それで、周囲の人は着ているもの(色)で性別を判断している、ということに気づきました。自分たちが気に入れば、青や緑や茶色の服も着せていましたので、娘は散歩の途中で会った人や、エレベーターで乗り合わせた人に(たいてい声をかけてくれるのは女性ですが)、「かわいい男の子ね」と何度も言われました。こんなちっちゃなときから、「女の子らしく」とか「男の子らしく」とかいうことを、知らず知らず学んで(学ばされて?)いくのね、と考えさせられました。
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