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⑩子どもが自分で選ぶことの大切さ


子ども自身に決めさせる

 娘は小さい頃から、洋服を選んだり、食べ物を選んだりする時に、ほとんど迷わない子でした。「うーん」とちょっと考えた仕草を見せても、次の瞬間には、「こっち!」とハッキリ指差すようなところがありました。

 子どもに、子ども自身に決めさせる。これは案外とても大切なことのように思います。大きな決断を迫る、というのではなく、毎日の日々の積み重ね、小さな選択の連続で子どもの暮らしが成り立っている、そのことを、その子自身に実感させることが大事なのではないでしょうか。

私は自分で決められない子どもだった

 私自身のことを振り返ってみると、「自分では決められない子ども」でした。いまでも折りに触れ思い返しますが、高校生の頃のことです。学校では何かの講座に参加するかどうかとか、夏休みの部活の練習に参加するかとか、他にもっとささいなことでも、ほんとうにちょっとしたことで自分で決めることがありますよね。そのたびに、高校生だった私はこっそりと、昇降口のところに一つだけ設置されていた赤い公衆電話(もちろん、携帯電話なんてものはない時代です)まで走っていって、電話をかけていました。どこへ? 専業主婦でたいてい家にいた母にです。「どうしよう? どうしたらいいかな?」 母はそういう電話にはもう慣れっこになっていたので、「こうしたらいいんじゃない」と答えてくれます。それを聞いた私は安心して、母のアドバイスどおりに先生や部長に答えていました。高校生にもなって、と今の私なら思います。しかし、物心ついてからずっと親に決めてもらっていたのですから、高校生になったからといって、自分で決められるわけはありません。

大人になっても「決められない」

 私の両親は、決して強権的で威圧的だったとは思いません。けれども、父の口癖は「良かったら、言わない」でした。これはどういうことかというと、私が父の意見と違う意見を主張すると、父は決まって「良かったら、言わない」と言って、議論を打ち切ってしまうのです。つまり、「万一あなたの意見が正しいと思っていたら、話し合い自体をしない。あなたが間違っているから、お父さんが正しい意見を言っているのだ」というわけです。それでもたまに、自分で決めてなにか失敗すると、父は「お父さんの言うとおりにしなかったからだ」と必ず言いました。こうしたことを繰り返すうちに、私は自分の決断に自信が持てなくなってしまったのでしょう。当たり前といえば当たり前ですが、当時の私には、親はもちろん自分自身を批判したり反省してみたりする眼はありませんでした。

 自分の決断に自信が持てないこと、そのことは、大人になって自分の人生や生活を築いていかなければいけないときには、大きな障害となります。「よし、こうしよう」と思っても、それで本当にいいかどうか、全く自信がないのです。この傾向は、もしかしたら今もって私に残っています。結婚してからも、子どものちょっと高価な服を買うかどうか、といったことでさえ、母に電話して相談していました。現在はまだ母が健在ですからよいのですが、この先、母がいなくなってしまったら、私はどうなるでしょう? 大の大人が恥ずかしい限りですが、そういうときは、あの薄暗くてすこしジメジメした昇降口にあったあの赤電話が、思い浮かぶのです。

日常の小さい決断の積み重ねから

 娘には、自分で決めた道を、自分で決めたことに誇りを持って、進んでほしい。そう願っています。ですから、今日着ていく服はどれにする? 何が食べたい?という日常的なことを、とても小さい時から娘に問いかけることにしていました。子どもですから、とんちんかんな選択をすることもあります。でも、たいていのことは「いいんじゃない」と娘の選択を尊重してきたつもりです。真夏にお気に入りのセーターを着ていきそうになった、というような、「それはいくらなんでも」というごくたまの場合をのぞいて。こんなこともありました。中学生の時、とても寒い地方ですので、娘が毎朝、制服にニットとフリースが二重になった赤いずきんを頭からすっぽりかぶって、登校していたことがあります。どう見てもファッショナブルという格好ではないので、「それ、友だちからなんか言われない?」と聞いてみました。すると、クラスのファッションリーダーのクラスメイトから「よく、そんな格好していて平気ね」と言われたよ、との報告。「大丈夫なの?」と少し心配になって娘に尋ねると、「だって、あったかいんだもん。いいじゃん。」との答え。うん、この子は大丈夫、と思えた瞬間でした。

子どもの決断を親がサポートする

 小さなことでも自分で決めさせる。そのことが、成長して大きな決断をしなくてはならなくなった時にも、きっと力になってくれる。その時親は、「あなたの決断は尊重するよ。そしてもしその決断で失敗したとしても、そのときは全力であなたをサポートするよ」と伝え続けることが大事なのではないでしょうか。未熟なうちは、大きな決断は自分でできないこともあるでしょう。そのときは、相談に乗る。親の意見も伝える。アドバイスもする。それで一生懸命考えて子どもが出した結論なら、だまって応援する、それが私の理想です。

 親にしっかり守られて育てられた私は、おかげで親が心配するような取り返しがつかない大きな失敗をすることもなく、大人になりました。それはありがたいと思っています。ですが、自分自身で選んでもし失敗や挫折をしたら、立ち直れるのだろうか、という疑念がいまでも払いきれません。なぜなら、そうした経験がないからです。娘には、自分には選ぶ力があるんだ、という実感を持ってもらいたい。もし選んだ道で失敗しても、自分には立ち直る力があるんだ、と信じて歩んでもらいたい、そう願っています。

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