思慕一途柳問答 3

「また、あの男かい?」

「つくづく物の怪に縁があるんでしょうなあ。」

「馬鹿な男かと思ったけどねぇ。それでも何度も首を
 突っ込んで、生きてるんだよ。何だってんだい?」

「勇さんは、、何ですかね、妙な運がある男なんでさ
 ぁね。死んだ親父さんから受け継いだ人足たちを、
 ああも纏め切るなんざ、正直誰も思っちゃあいませ
 んでしたぜ。」

「ふーん、、あんたも妙に信じてるじゃないかね。
 さてさて、、まあまた関わるってんなら、ほっちゃ
 おけないってとこかねぇ。」

「澪の姉御よぉ、そうイキりなさんな。勇さんにゃあ 
 、この江戸を作って護る。そんな運命でもあるんで
 すかねぇ。」

「あたしが知るかい。しかしさぁ、今度はろくろ首か
 い?急に弱っちそうなんが出たもんだねぇい。」

「しかも今度は妙ですぜ。ろくろ首は流暢に喋ったみ
 てぇですからね。どうも様子が違う。また何か入り
 用になりましたら、いつでも言って下さいや。」

「中山鉄斎、その腕は信用してるよ。けどさぁ、人を
 見る目はどうなんだろうねぇい。」

「へへっ、キツい姉御だ。まあ、勇さんに関わってみ
 りゃあ分かるんってもんじゃあ、ありやせんか?」

「面倒なぁ話だよ。」

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「おお、お雪さん、いらっしゃい!」

ああ、またぁ、、あたしの気が面倒になるなあ。
信幸の景気のいい声を、洗い物をする美代は背中で聞いて思う。

別に焼き餅って訳じゃあない!!

勇也と美代は一つ屋根の下で寝起きしてる。
勇也って男の性分は誰よりも知ってる。
何だかんだあったって、勇也があたしを粗末にする事なんかありやしない。

じゃあ何でこんなにヤキモキするのか?
んー既成事実が無いからなんだろうなぁ、、
良くも悪くも勇也は真面目なんだ。

「つまんないんだから、、もう!」

「おーお雪ちゃん!こっちで一緒にやろうぜぇい!」

追い討ちの様に明るい勇也の声が響く。

「あの馬鹿わ!こっちの気も知らないで!」

イラっとはしてみても、これが勇也なんだよなぁ。
結局は美代は納得するし、それでもモヤモヤとする。

「早いとこさぁ、言う事言えよ!
 こういう事だけは仕事が遅い!」

「おーい、美代!座る樽あるかあ!?」

美代の背中がゆっくりと揺れる。
そしてゆっくりと振り返る。

「うるさい!勇也!
 そこから持ってけえ!」

勇也と信幸が固まる。
そんな男たちを見て紫乃が小さく溜息を吐いた。
雪は少しバツの悪そうな顔をした。

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何もね、勇也をお美代ちゃんから奪おうなんて思っちゃあいないんだ。

たださ、この男を見ていたいんだ。
この強い男。
あたしを縛っていたものを、笑って無かった事にしてくれた男をさ。

寒い村は誰もが誰かに警戒してた。
少ない食い物を奪われまいと。
自分だけの幸せを損なわないように。

こんなさ、他人の為に、他人の中に踏み込んでくる人は居なかった。

惚れたとか、、じゃなくてさ、、

江戸って町の関わり方を知らなきゃならないじゃない?

雪に言わせれば、そういう事らしい。
中々に苦し紛れでも、、、

「何だよ美代、機嫌悪ぃなぁ、、」

「忙しいトコであたしが来ちまったからさ。」

「まあ、俺ぁ馴染みだからなぁ。こういう時ゃあ、気
 を効かせにゃあって事だな。しくじったぜ!」

勇也と一緒に来ている人足たちが一斉に笑う。

「頭ぁは、女の気を取れねぇから仕方ねぇんでぇ!」

「何だ!留!それじゃあ俺が女心の分からねぇ朴念仁
 みてぇじゃなぇかよお!」

「だったら、そろそろちゃんとしてやらにゃあ!」

「そうだぜ、頭ぁ。何ヶ月一緒に暮らしてんだい?
 キッチリしにゃあよぉー!」

「ほら見ろ、頭ぁ!このまんまじゃあ朴念仁でえ!」

また一斉に笑い声が上がる。

「何で人足さんたちの方が、余程分かってんのよ!」

美代は何だか、またイラっとしてきた。

「にゃろー!酒持ってってひと睨みしてやる!」

美代が立ち上がった時、また別の美しい声が聞こえた。


つづく

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