ネオンの悲鳴

だから嫌だって言ったんだよ。

ここは東京で1番の歓楽街。
田舎町から東京の大学に進学出来た。
サークルというものにも入ったし、初めてのコンパというものに参加してみた。

ところが二次会だ三次会だと付き合わされて、
気付けばもう3時になるところだ。
こうなれば始発を待って時間を潰すしかなかった。

田舎町の地元から東京に進学するのは珍しく
快挙だと喜んでくれた両親や御近所さんたちに
少し申し訳ない気持ちにもなった。

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「わああぁーーーーーー!」

仕方ないからもう一件捜そうと街を歩いていたら、突然に悲鳴とも絶叫とも判断がつかない声が上がった。
それはまるで街から湧き上がった様に感じた。

「何!? 何が起きた!?」

サークルの先輩たちが、その音の破裂に合わせてざわめきだした。
怖いもの見たさなんだろうな?その声が起きた場所を捜しだした。
僕も知らない街で逸れては途方に暮れる。
必死に着いていくしかなかった。

すると進んだ先に、うずくまる髪の長いスーツ姿の男と感情を失くした様に立つ女が見えた。

先輩たちは、それを遠巻きに見ていたが
僕はただただ大変だ!と思い、つい前に進んでしまった。

男の下には血が見えた。
助けないと死んでしまう。
田舎町では、そうやって皆んな助け合ってきた。

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「こいつを、、、」

男に大丈夫ですか?と声を掛けると、そう言って女の腕を掴みこちらに押し出した。

「こいつを頼む、、、」

男は首筋を押さえながら、絞り出した。

「きっとこの2人はトラブルに巻き込まれたんだ。
 彼女を逃がしてくれと言ってるんだ。
 自分はこんな目に合っているのに。」

僕は胸が熱くなった。
兎に角この場から離れなくちゃと思ったんだ。
女の腕を引いて先輩たちの方に向かう。
でも皆んなサッと避けてしまって、誰も手を貸してさえくれない。

「何て東京は冷たいんだ!」

単純に憤った。
困ってる人が居たら助けるのが当たり前だと育ってきたからだ。
頭が熱くなって、どうしたらいいのか分からなかったけど走った。

人気の少ない隠れられる場所がいい。
細い路地を、暗い方へと選んだ。
そうしないとこの人はすぐに見つかって、彼氏と同じ目に合う!そう思っていたんだ。

やがて匂いのキツい小さな路地を見付け、そこに飛び込んだ。

「大丈夫?怖かったよね?
 彼氏さん、きっと誰かが救急車を呼んでくれるか
 ら、助かるよ。」

女も息を整えている。
そのまま路地から灯りの溢れる方へと進んだ。

「だから隠れてないと、君も狙われちゃうんだろ?」

僕は手を伸ばしたが、今度は女の腕が払われた。

「えっ?」

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女の身体が灯りの下に現れた。
そして初めて口をきいた。

「ねえ、あの男、彼氏なんかじゃないよ。」

抑揚のない乾いた声がした。
僕も初めて女をしっかりと見た。
茶色の髪を肩口で切り揃えた綺麗な人だ。
黄色のスプリングコートに黒のミニスカートが似合っている。

こんな綺麗な人が狙われたらいけない。
僕は近くまで寄って、もう一度隠れる様に言おうと思ったんだ。

その時、彼女のコートの右ポケットに血が付いているのが分かった。
ポケットの中からも血が染みている気がした。

「あの男はね、悪いホストだったのよ。
 きっと今頃はもう死んでるわ。
 首筋を切られたんだから。」

「犯人は女なんだね?」

「そうよ。ホストは恨みを買いやすいのよね。
 だから女に殺される。

 でもね、今日のは違うの。
 恨みなんて無いのよ。

 殺してみたかっただけなのよ。」

僕は不意に風が吹いた気がした。
ここは狭い路地だから、風が抜けるとこんな風に感じるのかな?

目の前の女の顔が笑った。 
その手には小さな血のついたナイフが握られている。

「ねえ、どうして私が被害者だと思ったの?
 あの男は私を逃すなって言ってたのに。」

急に何が噴き出す音が聞こえた。
暗闇が更に暗くなった気がした。
そうか、、女は灯りの下に立ってるが
僕はまだ暗闇の中から抜け出してなかった。

そして、そのまま闇の中に引き摺られていった。


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