剣 1

人を如何に上手く殺せるか。

これが生きる術であった。
これがあればこそ武士は武士といえた。
この世は生き残った者が拵えたのだ。
ただそれが事実である。

戦というものが無くなって遥かに長い。
であれば武士とは何する者ぞとなる。
退屈を持て余せば詰まらぬ事で市井の者を
ただ無礼だと宣い無礼と斬る。

それは虚勢に過ぎぬ。
辻斬りに走る者なぞも
その様な気風に晒されたに過ぎまい。

さて武士とは
もはや人殺しを求められる者でもないか。
この長きに渡る平穏無事な世というものを。
そんな旗印に付き従えど成した事など
所詮は如何に多くの人を殺したかに過ぎぬ。

死んだ者どもを悪じゃ邪じゃと嘲りながら
胸を張った日々とて今は昔。

人とは愚かなものじゃ。
その願いが叶のうた暁には
退屈じゃと悪態をつくのじゃからな。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

将軍様が代わられた。
もはや五代となる。
さて此度も変わらぬ平穏無事かと思うたが
何やら風向きが違う。

「生類憐みの令」という。

要は全ての命を大切にせよ、という旨である。
魚も釣れぬ、獣も狩れぬ、野犬までをも殺傷してはならぬという。

子を捨ててはならぬ、ともある。
そうか、人は生き物であり命がある故な。

仁心を尊ぶという。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

だが、いや待て。
なれば我らは何となるか。
武士である。

武士であればいつ何時、上手く人を殺せるか
その牙は研がねばならぬ。
だが、それはもはや無き事と申されるか?

その武士というものこそが
我らの拠り所ではなかったか!?

解せぬ。
太平の世とは?
戦場を生き抜いた末路とは?
我らは自らの手で自らの首を絞める為に
殺し合いをしたのか?

武士の家に生まれたのが罪と申されるか!?
年老いた身なれど気概をなくしてはおらぬ。
何として生きよと申されるのか、、、

胸の中を憤りが駆け巡る。

「我が身を何と成すか。」

その様な思いがのたうち回る。

「人が斬りたい。」

そう、素直に思えた。
そうであるのが武士であろうや!
常日頃から抑えつけていた願望が
ふつふつと鎌首をもたげていた。

「さて、どの様に生きるか。」

次に思い浮かんだ言葉なぞは偽善に過ぎぬと分かり、ふと自笑してみせた。


つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?