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三忍道中膝転げ 3

「それで、お前たちは大阪城に行ったのだな。」

「はい。そして秀頼と呼ばれる子に会うたのです。」

「その頃、拙者は先代の服部半蔵が討ち取らればかり。跡目を継いで訳も分からぬまま、先代の遺言に従ってみれば、、まさか、あの様な化け物に出会う事となるとは。」

柳生宗矩の前に服部半蔵と茂平がいる。西への旅から戻った半蔵が、宗矩に引き合わせる為に連れて来た。
茂平の知っていた事が、江戸に現れる物の怪共への準備となっていたが、直接話を聞くのは初めてだった。

「九つの妖珠か、、それを淀殿が。」

「儂は、、孫を差し出しておりました故、その珠を使えるのではないかと申されました。」

柳生宗矩の手には六つの妖珠がある。皆川良源が調べた朱い珠は隠れ人たちが持っても、何をも生み出さずにいた。中山鉄斎にもさっぱり分からぬと言われた。

「半蔵、後ひとつか。」

「珠捜しはこの茂平に任せておりますが、この数年捜し続けても、最後の珠の行方は一向に知れず。」

「くどいが、珠は確かに九つ。そして使うには人を選ぶと。違いないな。」

「はい、確かにそう言われました。その球は元はひとつの輪であった。それが九つに割れ空に舞い上がったのだと。」

宗矩が唸る。珠は何に反応するのだ。

「輪が体の中で割れてぇ、肉の内から放たれたとなりゃあ、、差し詰めぇ隠した想いが流れ込んだってぇトコですかねえ。」

鉄斎が呟く。

「ああ、なるほど。欲かい。強い強い叶わぬ欲。そいつが珠を光らせるんだなあ。」

良源が鼻で笑った。

「先生、ちっと抑えて下せえよ。」

鉄斎が慌てるが良源は知らぬ顔だ。

「大体、武士なんてもんは欲の皮が突っ張ってやがる。金だ力だ女だってなあ。それで巻き込まれて泣くのは、いつだって市井の者よ。」

宗矩は良源のそんな気質を承知している。かつては己さえも始末しに来た男だ。その秘めた胸の内があるからこそ、今はこちら側に居る。

「叶わぬ欲か。つまりは淀殿も諦めておられたか。」

「はい、それはそうでしょう。何と言っても切り札の秀頼様が、ああなられては。」

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「何故だ。」

「ん?何だ?また訳の分からぬ事を言い出したな。」

「そうじゃあの。」

茂平の問いを兵衛門と五助は軽く聞き流す。

「儂と一緒に行けば、お前たちも里を抜けた事になる。
追われる身になれば、命を失うかもしれない。」

「だからこそ、共に行くのだろうが。お主も意外と頭が弱いな。」

「さっぱり分からん。」

「頭が弱いの。おらぁはな、お前らと旅をしてる方が、楽しいんじゃ!里には帰りとうは、ない!」

力強く叫ぶ五助を心底呆れた目で見る二人であったが、兵衛門は急に頭を振って話を戻した。

「違うわい!よいか!俺たちが三人で動いたとなれば、これは忍びとしての仕事になろうが!旅先で不穏な話を聞きつけた我らが、それを確かめる為に出向いた。」

「おおー!何じゃかぁ立派に聞こえるの。」

「五助は少し黙っとれ!つまりは言い訳が立つという事だ!里には文を持たせておいた。大阪に不穏な動き有り!とな。」

「誰に文を持たせたんじゃあ?」

黙ってられない五助が口を挟む。

「繋ぎの忍びが路銀を持って来たじゃろうが!元々俺たちはブラブラと町を周り、戦さ後の情勢を集めて帰る筈だったであろう。」

「意外と年寄りには優しいの、里は。」

五助がニチャりと笑うが、兵衛門はその頭をゴツんと叩く。

「大戦さで人手が足らんから、年寄りもかき集めたのだ。帰りにしくじられては困るのだ!だから、ゆっくり旅姿で帰れと言われとるだけよ。」

いつもの事だ。放っておけば何処までもこの漫才は続く。張り詰めた忍び仕事には憩いではあるが、今はそれ以上に厳しい話をしている。

「しかしな、儂は大阪城に忍び込もうと言うのだぞ。上手く入り込めたとしてもだ、命が幾つあっても足りないのだぞ。」

「行くも地獄、戻るも地獄ではないか!ならば、三人共におる方が良いわ。」

「じゃあの。おらぁたちは、ずっと一緒に来たんじゃあ。今までもぉ、危ない事ぁ沢山あった。三人じゃからぁ、何とかなったあ。」

「全く、、お前たちは。」

茂平は無表情で言った。

「さて、どうやって大阪城に忍び込むかだがあ。」

兵衛門が当てはあるのかと聞いている。

「ある、、とは言い切れんが、まずは人に会おうと考えている。久土山に行く。」


つづく





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