寂しさの辿り着く所
子供の頃、お母さんの作ってくれるご飯は魔法だった。
TVに映る料理はお店でしか出てこない物に見えた。
「これ美味しそう!食べたいなあー!」
無邪気にそう言った料理が晩御飯に並ぶと私は本気で驚いたし、本当に美味しくて嬉しかった。
だからなんだよな。
私は料理が趣味になった。
休日にレシピと睨めっこして、色々チャレンジするのが楽しくて仕方なかったんだ。
お給料日には、気になってたお店に行くのだって大好きだった。
そんな私を好きになってくれた人はとっても優しくて、私の料理を美味しい!美味しい!と平らげてくれる。
一杯食べてくれるのが嬉しかった。
結婚してから、彼の仕事は忙しくなった。
帰りが遅くなる人が続いた。
私は温め直しても、美味しくなる献立を選んだ。
「こんなに無理しなくていいんだよ。」
彼は食べながら言った。
「無理なんてしてないよ。」
「美味しいな、これ!」
彼は笑顔で頬張る。
「仕事終わってから、これだけの料理を作ってくれる
のは負担になってない?」
私も仕事を辞めてはいない。
私が帰ってきてから、家庭の事だけになって
息を抜く暇さえ無いんじゃないか?
そんな心配をしてくれる人だ。
自分がゆっくりと私の話を聞く時間が減っている。
それを気にしてくれる人だ。
「あのね。
頑張ってくれてるの知ってるんだよ。」
私は胸の内に締まっておく言葉を
口にする事を忘れない。
結婚してから特に。
前は自分の為だけに料理を作っていた。
今は彼の為にも料理を作っている。
1人の夜。
料理を作る事が自分自身との会話だった。
悩んだり迷ったり
生きてると、大人になると増えるばかりだ。
でも笑顔を忘れたくない。
だから私は料理を作る時間を、かえって大事にしてきたんだ。
寂しい時も悲しい時も
美味しく出来た料理は笑顔をくれたんだ。
「ねえ!このお肉柔らか!」
今夜のメニューはクリームシチュー。
寒い地方出身の彼の好物。
シチューの時は柔らかいパンを焼かずに添える。
それも彼の好み。
「俺、幸せだよなあ。」
不意にそう言われた。
シチューの鍋は空になっていた。
彼はお風呂に入っている。
無理なんてしてないんだよ。
私は今の流れが大好きなの。
すれ違いが増えると夫婦はギクシャクする。
会社の同僚からもよく聞く話だ。
そんな事が積み重なると離婚に繋がるらしい。
難しいよね、夫婦って。
だから私は彼の笑顔を思い浮かべる事を忘れない。
今は自分の為に、彼の為に料理を作っている。
世の中の他の家庭がどうかは知らない。
でも私は
私を気遣ってくれる事を忘れない彼と
この先も元気に生きていくんだ。
毎日の暮らしの中で、美味しい料理がどんなに大事か私は知ってるんだから!
1日の終わりが
そんな喜びに包まれたなら
私たちは幸せを忘れずにいられる。
そういう人と結婚した。
空の鍋はいつも笑顔に見える。
私の趣味はライフワークになった。
to be everyday life