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雪風恋情心火華 8

「今度の物の怪、雪女は訳が分からねえ。ただ、あの広場とこの屋台にこだわってる気がしますねえ。」

信幸の家で中山鉄斎が切り出した。

「ふむ。雪女の動きがおかしくなったのは、勇也を見た時と屋台を見た時だな。」

柳生宗矩の言葉に皆川良源が応える。

「確かにそうなんですがね、どうにもねえ。」

「何か気になるか、良源。」

「いやね旦那。俺にはあの雪女、端から屋台を狙ってた様な気がするんですよ。そうしようとしたら勇さんが居て、何かに引っ掛かったと考えた方が辻褄が合う。」

その考えには鉄斎も賛同した。

「確かにねえ、おいらも勇さんごと屋台を潰しそうに見えたんでさぁよ。そいつが何て言うのかぁ、、勇さんの何かに見惚れたってんですかねえ。」

「成程な。」

「旦那ぁ。分かっちゃいないんでしょうよ。」

松方澪がニコリと笑う。

「話を聞いた限りなんですがねぇ、どうも雪女は勇也が美代から離れなかった事に、気を削がれたんじゃないんですかねえ。」

中山鉄斎が手を打った。

「そうか!物の怪ってのは不幸の塊でさあ。女の不幸って言ゃあ、好いた男に捨てられる事もあらぁな。」

「惚れた男に捨てられた恨みか、有り得るやもしれぬ。」

澪が宗矩の言葉を繋げる。

「だから、勇也たちを避けて屋台に飛んだってえなら、余計に辻褄は合うってもんでしょうさね。」

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「で、俺たちのやる事ぁ決まったって訳だなあ。」

話を黙って聞いていた勇也が声を上げる。

「俺と美代が、この屋台をあの広間に持っていけば、また雪女が現れるかもしれねえってんだろ。」

宗矩と澪が顔を合わせる。鉄斎と良源も眉を顰めた。

「だがな勇也、嫁御を危ない場に連れ出すのは。」

「そうだよ、勇也。次はどうなるか分からないんだよ。」

宗矩と澪の言葉に勇也はカラリと笑う。

「雪女だけにお熱いのが嫌いなんだろうからよお、俺が美代をしっかりと離さずにいりゃあ何とかならぁな。」

「勇也、信幸さんたちには恩を感じてるんです。この屋台が無かったら、あたしたち出会わなかった。二人の為になる事は一生懸命しようって。」

美代が勇也を後押しする。こういう時に勇也の気持ちを汲めるのが美代である。

「この屋台はあたしたちにとっても思い出がいっぱい有ります。黙って壊されるの放っておけません。」

「それならあ、あっしも行きやす。屋台を護りてぇってのは、あっしも同じで御座んす。」

佐納流園も話に噛んでくれば、雪も黙ってはいられない。

「流園さんひとりじゃあ、また雪の中で戸惑うでしよ。あたしは雪国の生まれです。やる事さえ分かれば動けますから。」

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皆が口々に言うのを見て、澪がゆったりと笑う。

「旦那ぁ、こうなったら言っても聞きやしませんさね。」

鉄斎も息を吐きながら宗矩を見る。

「しかし、此度の雪女は強敵だ。斬ったとて消えた。つまりは仕留められておらんという事。」

「術者が何処にいるか?ですかね。二手に分かれにゃあなりませんよ。半蔵さんはまだお戻りじゃあねぇんでしょう?」

宗矩に良源が尋ねる。

「まだだ。無事であれば良いが。何せ大阪だ。」

「相手の本丸ですからね。」

「何だい、大阪が本丸ってぇのは?あんたら物の怪が何処から来てるか分かってんのかい!?」

勇也が驚いて言う。それが分かっているのなら、物の怪の大元を潰すのが早道だからだ。

「まあ待てよ、勇さん。多分、大元は大阪だ。だかなぁ、江戸に来てる連中が江戸で物の怪を作り出してんだ。そいつらをどうにかしなきゃあ、大阪をどうしたって変わりゃあしねぇんだ。」

「鉄っあん、そいつは前にも聞いたぜ。だけどよぉ、大元を放っておきゃあ、ぶっ倒してもまたやって来んじゃねぇのかい?」

勇也は思った事を素直にぶつけていた。


つづく



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