思慕一途柳問答 5
「あたし、勇也が危ない事するの、嫌なんです!
勇也は物の怪退治が仕事じゃないんです!
そんなぁ、戦ったりしなくていい人なんです!」
特に今回は女じゃないのぉ!とは言わないままで、美代が澪に懇願していく。
「あなたたちが誰で何なのかは分かりません。
でも物の怪退治をしているなら、お願いです!
勇也を巻き込ないで下さい!」
雪は支えながら美代の身体が熱くなっていくのを感じていた。
「強いんだなぁ、、」
心底、そう思っていた。
惚れた腫れたなんて、よくは分からない。
でも、こういう事なんだろうなあ、、
こりゃあ、あたしなんかはお邪魔だよね。
胸に小さな針が刺さった気がした。
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「そうだねぇい、お嬢ちゃん。
あたしだって本当はこんな役目じゃないのさね。
ただ、うちの旦那がねぇ手伝ってくれ!なんざ言う
ものだからさぁ。」
澪にしては珍しく、優しい目を美代に向けていた。
「お互い惚れた弱みってやつさぁねぇい。」
瞬時に美代があからさまに慌て出す。
「惚れたぁあ!?いや、その、それは、、あたしはそ
うじゃなくても、そりゃあ危ない事にわぁ、、」
更に澪の目が深みを増す。
「いいかい、お嬢ちゃん。
誤魔化してても良い事たぁ無いよぉ。
胸を張って、こいつは自分の男だ!
って言わないとね。」
そう言う澪の目に、美代は吸い込まれる様な気がした。
自信があるって、こういう事なんだろうなぁ。
男が自分に惚れてると信じられて、男が自分だから頼ると受け止められる。
そこには、今の美代と勇也よりも深い情や肌の温もりがあるんだろうなぁ。
男と女の深み。
そこに辿り着くのだって、誤魔化していちゃあ出来ないって事なんだろうなぁ、、、
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「ああーもう何で、こう小っ恥ずかしい話になってん
だよお!ろくろ首だろ!?ろくろ首!」
聞いてるだけで堪らなくなったであろう勇也が割って入る。
「何だい、小っ恥ずかしいとはさぁ。あんた、ちゃん
とこのお嬢ちゃんを抱いてんのかい!?
女をこんなに必死にさせるなんざぁ、男の甲斐性が
足らない証拠さぁね!」
ピシャリと言い放つ澪の言葉に、勇也はひょっとこみたいな顔で固まり、それを見た一堂がドッと笑う。
「確かにぃ、頭はそういうトコはからっきしよな!」
「頭はぁ、奥手なんでぇい!」
「もう大分、一緒に住んでんのによぉ!」
「うるせえー!うるせえぞ!うるせえ〜!」
闇雲に声を裏返す勇也を、近付いてきた澪がジッと覗き込む。
「まあ、、男の方がガキだからねぇい、、
いいかい!惚れた女を抱けるのは惚れられた男だけ
だって、よぉーく覚えとくんだねぇい!
他のどの男にも出来やしない天命だってさあ!」
「うっ!」
勇也は澪の迫力に押されて呻いていた。
「さあ!ろくろ首はあたしが始末してやるから、洗い
ざらい、話しちまいなあ!」
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火鉢を囲む勇也たちに混ざって、澪が酒を飲み干して息を吐いた。
「なぁるほどねぇい。
鉄斎の言ってたのは、そういう事かい。
どうやら今度のは物の怪と術者が分かれちゃあいな
いねぇい。」
「物の怪と術者ぁ?」
「あんたらには関わりない話だけどねぇい、今まで出
たのは本物の物の怪じゃあないのさぁね。」
「えっ!?それって、、どういう?」
流石に美代も気になるのか、話にのってきた。
「つまりはぁねぇい。
物の怪を生み出して操ってる連中がいるのさね。
だから河童も天狗も物の怪であって、物の怪じゃあ
ない。
そいつらが知ってる河童や天狗を、その通りに実体
化してるだけなのさぁね。」
「何かぁよお、複雑なんだな、あいつら。」
「だよね。頭こんがらかっちゃう。」
「鉄斎は文献を調べて物の怪退治の術を見付ける。
こいつがピタリとハマるのはぁ、相手も文献を調べ
て、物の怪を形作ってるからさぁね。」
「つまりよぉ、、本に書いてある通り考えて作ってる
って事かよお?」
「そういう事で間違いないとぉ、あたしは踏んでるの
さぁね。」
勇也も美代も半分くらいは分かってきた時、また信幸のうどん屋台に素っ頓狂な声が掛かった。
つづく