天空凧揚げ合戦 12

動けば動く程、天狗が布に包まれていく。

「やったぜ!落ちやがる!」

「天狗が、、落ちる、、」

勇也と共に雪がその姿を見つめている。
あの天狗が、、兄貴の仇の天狗が落ちる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「舐めるなよ!伊賀者共があー!!」

月夜に何者かが吠えた。
何かが飛ぶ音がする。
木々の間から幾つかの呻き声がした。
そんな声がした枝のひとつに人影が立った。

「俺は秋月草太!聞けぇい、伊賀者よ!」

その人影、秋月草太が馬鹿正直に叫んだ。
普通忍びというものは、闇に紛れ潜むものだが。

「だ、誰だあ!秋月草太って!?」

勇也も突然現れた男に驚いていた。

「こんなくだらない手で天狗を落とせるかあ!!」

布の浮力が切れたなら、ただ落ちるのみであった天狗の羽が手が足が!布を引き破って現れた。

「何だ!何だあ!何がどうなってんだあ!?」

「あの甲賀者が手裏剣を投げた。
 天狗の布に裂け目を入れ、そのまま木の上の伊賀忍
 びを、、」

「この江戸を秋月家、再興の地とする!」

天狗の使い主、秋月草太の声が高らかに響いた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はああーーーーーぁ!?
 おい!こら!忍者!
 江戸は俺らの町だぞ、こらあ!」

「何だ、お前?
 町人か?」

「そうだぞ!こらあ!」

「こんなんが秋月家の手駒になるのか!?
 お前!生きてたら、奴隷な。」

「ど!奴隷だあー!?
 ふざけんなよ忍者!」

「態度悪ぃなあ!
 じゃあイラね、今死ね。」

天狗は自由を取り戻したとはいえ、先程まで天地の分からぬ身。
それでも本能とでもいうのか、羽を大きく動かした。
その結果、天狗は自ら落ちる事を継続した。

「あ!馬鹿!天狗、そっちは下だ!」

勇也を狙おうとしていた秋月草太も気を取られた。
取られた刹那、手裏剣が頬を掠める。

「おのれ甲賀者、儂を巻くとはな。」

「服部半蔵!追いつきやがったのかい!」

秋月草太の向かいの枝に、睨み合う様にして半蔵が姿を現した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あの町人、、、馬鹿なんだねぇ。
 まあ、まずは天狗からでしょうよ!

 あれこれ鬱陶しいのよ!」

様々入り乱れる中、後続の馬から誰かが飛び降りた。
飛び降りた勢いのまま前に宙を滑る。
滑る中、手にした太鼓の撥の様な棒を真ん中からカチリと捻る。

その途端、棒はグンと伸びた。
その先が地に突き刺さる。
端を持った女•松方澪が、しなる棒の反動に乗り身体を大きく振るい、足から宙へと舞った。
着物の裾が捲れ下がり、肉付きの良い下半身が月と星の輝きに照らし出されている。

そんな澪が矢の様に上へと飛ぶ。
そこに天狗が落ちてくる。
クルリと足を返し体勢を戻す。
天狗の纏う勢いが澪を襲う。
その風に逆らわずに今度は身体を捻り回し、その拍子で刀を抜きすれ違い様に薙いだ。

「グワアアーーーーー!!」

天狗の悲鳴めいた鳴き声が響き渡る。
それを後に、今度は澪が月光を浴びながら下へと落ち始めていく。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「澪!!」

宗矩が馬の尻を大きく振り二人を落とす。
先に落ちあ勇也の上に雪が尻から落ちてくる。

「おわぁ、痛えなぁ!おっ、ぐぇ、、」

「ごめん、勇也!」

「お、おう!平気!お雪ちゃん、あぁ、無事かい?」

「あっ、うん。」

「良かったあ。あのさ、尻を退けてもらえるかい?」

「あ!」

雪がちょっと頬を赤らめた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「馬鹿野郎!どうなりやがったあ!?」

驚き呆気に取られた草太の枝に、抜刀した半蔵が襲い跳んだ。

だがそれを草太がクルリと躱す。

「南無三。」

躱したはずだった。
躱したといえば、躱せはした。

「危ねーな!
 いや、惜しかったなあ。」

「何がだ。」

「俺は生きてるぜ。」

秋月草太はニヤリと笑った。


つづく
https://note.com/clever_hyssop818/n/n51eed728d511


いいなと思ったら応援しよう!