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三忍道中膝転げ 8
「成程な。束ねて技と成すか。それが出来るからこそ、上忍たる器よ。伊賀忍として名を響かせるは、家名より力か。」
現れた忍び装束の男が、ポツリと呟いた。
「そうじゃあー!三人揃っておるから、出来る事も有るのだわい!」
「確かに。その羽で大阪城の天守閣に行くなど、ひとりでは出来ぬ事か。」
三人は心底驚いていた。何故それを知っているのだ?
「まさか、ずっと、、」
茂平でさえ動揺しているのが分かる。
「お前は何者なんじゃあ!?」
緊張に耐えられなくなった五助が騒ぎ始める。
「何じゃい!だったら、お前ひとりで天守閣まで行けるんかの!」
黒装束は目付きを変えた。
「無理だな。無理だと思っていたから、今までは捨て置いた。が、どうやら甘く見ていたようだ。」
「何故、止める。」
「先代からの遺言だ。」
「先代、、服部半蔵か。」
服部半蔵は個人の名ではない。伊賀忍軍の頭領たる者が名乗るものである。謂わば称号に近い。
「と、頭領じゃとお!兵衛門、ど、どうしするべかの?おらぁ楯突いちまったぁ。」
「俺も楯突いとる!どうにもならんわい!」
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「先代は、茂平が大阪に向かうなら止めよと残した。訳は知らなんだが、、聞いた所で俄には信じがたい。しかし、これは服部半蔵への命だ。」
「それで、四条河原からずっと見張っていたのか。」
「服部半蔵の命は伊賀忍軍の意志。止めねばなるまい。」
「断ると言ったら。」
「惜しいが、始末する。」
「そうか。では!」
言うより早く茂平が手裏剣を投げ、半蔵へと走り出した。半蔵はそれを避け上へと跳ぶ。半蔵が立っていた場に着いた茂平が真上に再び手裏剣を投げる。
「今の内じゃわい。五助、来い。」
兵衛門と五助も真逆へと走り出していた。
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「初めて会った時は死を覚悟しました。」
「あの後、お前が時間を稼いで、その隙に飛び立つ支度をされてしまったな。」
「半蔵殿とて、すぐ後には大阪城に現れたのですから、伊賀忍軍頭領の力の恐ろしさ思い知りました。」
「それが今や、共に大阪方に立ち向かっている。」
「思いもしませんでした。が、心強い事。」
「まあ、呑め。」
佐納流園の屋台を茂平も気に入った様だった。あの夜、
死闘を繰り広げた忍び二人が、今は江戸で酒を酌み交わしている。
「あの人は半蔵さんのお仲間かい。」
「そうだ。前に話した大阪を調べる者だ。」
「で、旦那。どうなんだい?江戸にはもう物の怪は現れないのかい?」
柳生宗矩の茶碗に酒を注ぎながら、勇也は尋ねた。
宗矩は少し顔を曇らせる。
「分からぬ。珠は後ひとつ見つかってはいない。それに大阪には二つの珠がまだある。こちらに来ないとは言えはしまい。」
「全く、どんな物の怪が居るってんだい。」
勇也が悔しそうに吐き捨てる。
「ひとつは容易く動きはしない。もうひとつの物の怪、般若はどう出るか分からぬ。」
「般若だって?」
「ふむ。女の鬼だな。あの半蔵が命辛々逃げ果せてきた程だ。手強い。」
「冗談じゃないぜえ、そんなのが江戸に来たらよ。」
「何とかせねばな。」
宗矩はグイと酒を飲み干した。
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「危なかったの。しかし茂平は、やはり上忍なんじゃろかの?服部半蔵と張り合うなんて出来んじゃ。」
「いつまで鳶のままで話しとるんじゃあ。早よ自分の身体に戻らんかあ。」
「いや、五助。そのまま天守閣の周りを一飛びしてくれ。様子が分からない。」
茂平と兵衛門は翼を大阪城天守閣の上に止め、グッタリと動かない五助の身体を下ろしていた。五助の唯一無二の秘術とは、あらゆる生き物に魂を憑依させる事である。その間、五助の身体は抜殻になる。
その術を使い鳶の姿で二人の乗る羽を誘導して、この天守閣へと到達したのであったが、辿り着いた瓦の上には誰も待っては居なかった。
「さて、ここからどうなるか楽しみじゃわい。」
そこで抜殻の五助が目を開き、急に起き上がった。
「おわぁ、あった。」
「戻ったわい。」
「五助、何があった。」
「あっちの瓦の上に六文銭が置いてあるんじゃの。」
六文銭は真田家の旗印。どうやらそこに行けば、道は開ける様だと三人は思った。
つづく