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三忍道中膝転げ 11

「火薬の匂い、、」

天守閣にて、隠し部屋へと繋がる梯子を見付けた服部半蔵は、中から香る僅かな匂いに気が付いていた。

「行くしかあるまい。あの茂平という男、何やら天下の大事に関わっていると見た。淀や秀頼よりも、更に深い闇に。」

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「分からんわい、、何処も何の変わり映えもせん。」

「んー、んー、、なあ、ねずみが鳴いとるの。」

「俺には聞こえんが、、」

「そうか、天守閣の中にこれだけの隠し部屋。壁が厚い訳がない。」

「なるほど。並の城なら隠し通路が関の山だわい。これだけデカい城とはいえど、そこまでの場所は作れんか。」

「うむ。ならば、壁を破ればいい。」

「そうじゃがの、、派手に壊せば、今度は城のもんに見付かるじゃろ。どうする気なんかの。」

「五助、ねずみがいるんだろう。」

「何処ら辺だ?苦無で穴を開けちゃるわい。」

「んん?お、そうか!齧ればいいんじゃの。」

兵衛門が開けた穴に焼き米を撒く。すると穴からねずみが顔を出した。そのねずみの目を壁にもたれて座りこんだ五助がじっと見る。やがて五助の身体から力が抜け、代わりにねずみがはしゃぎ出していた。

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五助ねずみは瞬く間に人が這って抜けられる穴を開けていた。

「よし。五助、こっちに戻れ。」

「とっとと、ここから抜けるわい。」

「分かったのちゅー!」

ねずみが五助の身体をよじ登ろうとした、その時。

「いやいや、こんな所で休んでるたぁなあ。お前ら、緊張感が足りねぇんじゃねぇかい。」

「はあ、またじゃ。大阪に関わってから、こればかりだわい。」

気配を全くさせずに近くに立っている浪人姿を見て、兵衛門が溜息を付いた。それは天守閣の屋根から三人を案内した男だった。

「大人しく帰してはくれんか。」

「帰るつもりで来たのかよ。ここは大阪、甲賀の庭よ。」

「伊賀者は敵か。共に働いてきた筈だかな。」

「伊賀は御家を貰ったが、甲賀は捨てられた。」

「それは徳川の殿様が決めた事じゃわい!俺たちを恨まれても知らん!」

兵衛門が抗議するが、男は耳を貸さない。

「そんなもんだろうがよ!戦さだって何だって!塊で敵にすんのさ。お前らは徳川方、徳川方は敵。だから、生かして帰さんという次第よ。」

「無茶苦茶だわい!まあ、だが、この世はそんな事の繰り返しよなあ。な、茂平。」

「確かにな。人の気持ちは与する側とは、また別で有ろうにな。」

「全く、この世は無常だと言うにな!」

「だから昔は共に居ても、今は敵なのよ。」

「あ、成程だわい。よう出来ちょるな、この世は。」

「くだらねえ話は終わりにしようや。ついでにお前たちも終わりだがなあ。」

「ああ、もういいわい。」

「そうだな。もういい。」

「何を言ってやがる!」

イライラして叫ぶ佐助の頭の上から、天井に掴まって来た五助ねずみが降って来た。

「くっ、何だ!?痛っ、、」

五助ねずみが首筋や鼻に齧り付く。その間に兵衛門が穴を抜け、五助の身体を押しやってきた茂平を引っ張る。それを見届けてから、五助ねずみも穴から外へと逃げ出した。

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「くそ、待ちやがれ!、、ん、他にも誰か入り込んでやがるのか?」

佐助の耳に刀を抜く音が聞こえる。佐助配下の甲賀忍び数人も廊下に出てきている。誰かがそいつらと鉢合わせた様だった。

一旦気にはしたが、並の者に破れる甲賀忍びではない。佐助が三人を追いかけて構うまいと判断した折、今度はくぐもった呻きがした。まさか、、仕方ない、今は何者か確かめねばならんようだ。

この時まだ、佐助は年寄り三人ならすぐに始末出来ると侮っていた。

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「面妖な!」

「無駄だ、無駄だ。この大阪城天守閣、隠し部屋に迷って出たが運の尽きよ。」

その後、佐助は当たりだと思った。そこに居たのは、伊賀忍軍頭領・服部半蔵だった。

「丁度いい。」

時には共に働いた事もある。
だが忍びという者は仕事に寄って立場が変わる。
敵であった事があり双方が生きているというのならば、そこには勝てなかったという事実しかない。

伊賀と甲賀が明確に敵なった、今。
その悔しき事実は消さねばならない。

「格の違いを見せつけてやるか。」

そうして猿飛佐助は懐の妖珠を取り出し、己の物の怪である般若を呼び出したのだった。

(この場面は序章・嘆きの珠と同じく。)


つづく



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