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剣 14

さてもさてさて

いつ玉千鳥と呼ばれる殺し屋が、自分の前に現れるのか?それを考え何としても斬ってみせると、どれ程残されたか分からぬ時を過ごす大沢美好。絵空事が現実になった今、自ずとその足が地に着いてきております。

しかし、そんな充実とも言える日々がずっと続く訳はありませんでした。

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美好がその大店の通りを抜けようとした時、耳元に声が届いた。

「腹は決まったかい。」

とっさにサラりと踵を返すが、道行く中に美好を見つめる者は居ない。何処だと目で探る。腰の刀には左手だけを鯉口に添えた。ここで柄までをも握れば騒ぎになる。数日前の様になられては、相手の思う壺に違いない。

「賢いねえ。そういう所は俺たち向きだぜ。」

美好は声の主を捜すのを止めた。どの道、後の先しかないのだから、今場所を探っても意味が無い。向こうから仕掛けて来た時しか、勝ちは無いのだ。

「殺し屋稼業、玉千鳥だったか。隠れるのは得意なもの
 だな。ここで立ち話をするか。」

気持ちは精一杯張り詰めていたが、努めて小声で話す。

「通りの入り口に団子屋がある。そこに行け。」

美好は黙って頷いてみせた。

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店に行き置いてある縁台に座り、団子と茶を頼む。

(さて、何処から来る。)

そう思うと茶碗を掴もうとする指が一度滑っていた。
落ち着いて茶を一口飲み待つと、店の者が団子を持ってきた。そして団子と一緒に小さな紙切れを渡してきた。

「そうそう、先程こちらを御武家様にお渡しする様にと
 御預かり致しました。」

「何?どの様な者であったか?」

美好が思わず尋ねるが、店の者は特に目立つ所の無い男だったと答えた。

「御役目で使うものだからと、念は押されましたが。」

それ以上は聞いても無駄であろう。
美好は紙を開いてみた。

(亥の刻(夜22時) この場所にて。)

それだけが書かれていた。この場所とは、この団子屋の前というのだろう。木戸は暮六つ(大体18時頃)には閉まる。今宵は居酒屋にでも行って待っていろというらしかった。

連中からしてみれば、ここには川がある。船を使えば木戸などは気にしなくても済む。帰りもそんなところなのだろう。

しかし美好としては、そうも行かない。いわばこれ自体が試されているのだろう。どうにかして、ここまで来てみせろという事だ。

そこまで考えた美好は、その小さな紙切れが破れそうな程に指に力が入っていた。

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ついに繋ぎを付けられた大沢美好。
数日前、辻斬りをしてやろうと彷徨いていた事を思えば造作も無い事。しかし、このひとつひとつを試されているのが気に食わないのです。

しかし逆を思えば、美好の何を信じろというのでしょう。見込みがあるかも、それが相手方にとっても全てなのです。自己評価だけが高くとも、他人には存外伝わらないものであります。


つづく


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