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三忍道中膝転げ 7

「デカい、、の。」

「三人乗りだからだわい。」

「乗るトコはぁ、、狭いの。」

「羽がデカくないと飛ばんからだわい。」

「あー狭苦しいの。」

「やかましいわい!お主は身体を括り付けとくだけじゃろう!乗り心地うんぬんは俺たちの話だわい。」

「あーそうじゃの。」

呑気な兵衛門と五助である。茶臼山に来てから、かっちり二日目の夜、山の崖っぷちに大きな羽が出来上がっていた。羽の中央には手摺りが吊るされており、その横棒に三人の胸辺りを腕を立てて合わせる。腹と足は、これまた吊るされた革紐を巻いて乗せる。いざという時には逃げ出さねばならないから、しっかりと固定されている訳でもない。甚だ不安定な乗り物である。

「三人の身体に革紐を巻いてから羽に留める。逃げる時には紐を斬らねば共倒れだわい。」

「ちょ、ちょっと待てぇよ。そん時はおらぁの身体は、どうなるんじゃの?」

「落ちるわな。」

「おらぁ終わりでねぇか!」

「だから、そうならん様に道案内をせえと言うとる。」

「あー、あー頑張ろ!ひとりで死にとうはない!」

兵衛門の言葉に五助が相変わらず騒ぎ立てる。

「湯が沸いた。白湯でもどうだ。」

そこに茂平が来て休憩となった。

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「凄いな、兵衛門。あれなら飛べそうだ。」

「飛べる!後は風の流れに乗り、上手く羽を傾けて調子を取れば良い。」

「頼りになる。」

「動かし方は俺に従えば良い。お主は城に着いた後の事を考えろ。」

「うむ。」

「会えたとして、生きて帰すとは言うとらん。会うてから、どうするかだ。」

「どうするか、、か。」

「連れて帰りたいんじゃろが。」

茂平は兵衛門の言葉に目を伏せる。

「あれは今や孫ではない筈。連れて帰るは叶わない。もし出来るとするならば、、殺してやる事だけかもしれん。」

兵衛門と五助が静かに茂平から視線を外した。

「昨夜、話は大体聞いたがな。お主の孫に戻せれば良いのだろう。手は無いとは限らんわい。」

「儂は、孫が秀頼になる様を見た。あの珠だ、朱い珠。あれはこの世の事とも思えない、そんな光景だった。」

どうしたものか。流石の兵衛門にも一晩考えても、良い手は浮かんでいなかった。話は聞いたが、茂平の言う通りこの世の事とは思えずにいた。

「確かに、、いや、まだ思いつかんだけだわい。」

兵衛門は空元気を見せた。茂平の葛藤が分かる。
不可思議な話だが、自らの無力を知らしめられる程の事であれば、諦めるしかなくなる。兵衛門と五助が聞いたのは、あたかも魔界の儀式の様であった。

しかし友としては、素直に諦めろとは口が裂けても言いたくはなかった。

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「そこまで分かっているのならば、拙者の命に従い、大人しく里へ帰ってもらおうか。」

そんな友の空気を無粋な無機質な声が破った。

「な、何じゃあ!?」

「今度は誰じゃわい!忍びに気配を悟られぬ奴が多すぎじゃ!」

「そうじゃ!おらぁたちは、まだ耄碌しとらんぞ!の?」

「二人共、待て。命と言った。ならば上忍だ。」

茂平が誰も居ない木々の一点を見つめている。

「茂平、だったか。噂通りの忍びと見えるな。」

「何が噂じゃ?茂平は茂平だの!」

木々の合間から溜息が漏れた。その息音が消えていくのに反して、人影が現れ始める。古風な黒装束の姿。
だが、顔だけは隠していない。

「若いな。」

「そんなあんたが、、こいつらに付き合わなけりゃあ、今頃は上忍だったものを。」

「何、、じゃと!?」

五助が思わず声を上げる。

「一芸には秀でている。それは認める。が、お前たちはどちらもひとりでは役に立ちきれん。使いづらいとお払い箱になるのを茂平が引き受けてきた。」

「お、俺もか、、」

兵衛門も口をあんぐり開いていた。

「色々作るらしいが手間が掛かり過ぎる。誰かが、その間を作らねばならん。」

「な、、、俺の作るカラクリの凄さも知らん青二才如きが!舐めた事を言うでないわい!」

「止めろ!」

そこに茂平は割って入っていく。

「一芸は忍びの命。それを活かすのもまた、忍びの技。」

「成程な。使える者は使う。道理だな。」

「忍びは所詮は使い捨てだ。ひとりで動くのが当然かもしれない。だが、だからこそ、共に活かす事で時に大きな技となる。儂ひとりの力で果たしてきた成果ではない。」

茂平は上忍である忍びの前で一歩も引かずに言い放っていた。


つづく





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