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三忍道中膝転げ 6

「へえ、流園さんは竹細工が出来るのかい?」

「あっしは旅一座でしたから、籠なんざは作ってやして。まあ、不恰好なもんで御座んすが。」

「凄いよ、流園さん。あたしも教えてもらおかな。」

「おお、やれ、やれえぃ。」

「何よ、勇也。簡単に言ってさ。」

「まあまあ。あっしで良けりゃあ、いつでもお待ちしておりやすから。」

雪女騒動から少し経ち、季節はゆるやかに涼しさを覚えてきている。佐納流園が言うには、秋になると竹の水分が抜けしなやかに強くなるらしい。

勇也と美代はそんな話を聞きながら、穏やかな日を過ごしている。出来る事なら、もうこのまま物の怪などは出ないでほしい。

そう願いはすれど、この事はそれ程容易くはなかった。
勇也や美代がまだ出会いもしない頃に端を発しているのだから。

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茶臼山、秋も暮れ。やがて冬となろう頃。

「よう竹が乾いとるわい。」

「のう、兵衛門。呑気に竹を切っていて、いいんかの?
十日しかないんじゃぞぉ。」

「黙って集めんか!二日もあれば出来上がるわい。」

「何を作るんじゃかの。」

「羽だわい!」

「羽ぇ!?鳥にある、あの羽かの?」

兵衛門が手を止めて、面倒くさ気に五助を見る。

「煩い奴だわい。おい、茂平!お主もこっちへ来い!何をするか話して聞かせてやるわい。」

兵衛門という名は伊達ではない。この男、仕事に必要な物を作る才に恵まれている。老人三人で様々とこなしてこれたのには、兵衛門の発明が一役買っている。

今回は現代でいう、ハングライダーを作ろうとしている。

「五助の身体を真ん中に括り付けて、横から男と茂平の双方で挟む。」

「おらぁは身動き取れねぇでないかの。」

「お主には術を使って道案内してもらうのだわい。」

「これで、大阪城天守閣まで飛ぶのか。」

茂平は半信半疑の顔。今いる茶臼山は大阪城より遥かに低いのだ。この場から飛んだとして、何処かでは城を登らねばならない。こんな大きな翼で見つからない訳が無い。すぐに討ち取られてしまうだろう。

「違うわい!直接、天守閣の上に行くのだ!羽は天守閣の屋根に隠れる。」

「その羽で、ここから、天に登、、れるかの!?」

「良いか、お主ら!大阪城は湾が近い。海風に乗り高さを上げるのだ。五助には引っ張ってもらうかもしれんがなあ。」

「海風か。」

「大阪城はデカい。あの建物に風が当たれば吹き下ろしの風が生まれる。」

「落ちるでねぇか!?」

「まあ、待て待て。そこまでに高さを取っておけば、逆流の風で緩やかに飛べる筈だわい。天守閣に降り易いわい。」

「そう上手くいくかの。」

「海からの風を読めばいいんだな。」

「そうだわい。高ければ高い程に見つかりにくい。」

「風の強い雲の多い夜がいいの。」

「だからこそ、五助の案内がいる。風が強く暗い夜になる、、俺と茂平は羽を操るので手一杯だわい。」

「すまんな二人とも。危ない目に合わせる。」

茂平が改めて言った。

「お主はいつまで言っとるんじゃわい!」

「だがな。」

「孫だなんて聞いたらぁ、放っとけないからの。」

「何がどうなったか知らんが、そういう事だわい。死ぬ前に、生きとるなら顔は見たかろう。」

「忍びは、会えん方が多いからの。」

二人の言葉に茂平は、心から答えた。

「有り難い。」

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「会いたい、、それよりも詫びたいのだ。
あんな物を手に入れてしまったから。
常に身に付けさせてしまったから。
良い暮らしが出来るならばと望んでしまったから。

儂は大切な可愛い孫を忍びの生まれのままであるよりも、辛く人の心を無くす目に合わせてしまったのだ。

今の孫は孫にあって孫にあらず。儂の孫であった者は最早、、この世にはいないのかも知れない。

だか、その姿だけはこの世に影縫いの様に残っているのだ。既に亡骸と言えるかも知れないが、、せめてその姿、身体にある孫の血には一言、詫びたい。」

兵衛門と五助は、本当にそんな顔の茂平を初めて見ていた。そんな声を、感情を人前に晒す男ではない。尚更に事の重さを突き付けられた。

が、長い付き合いだ。生きるも死ぬも常に一緒に感じて、ずっとこの歳まで生きてきたのだ。今更、気にしてなんになる。そう思うと二人は笑えてきた。

何の目的も無く残りを生きるより、忍びとして果てるなら晩節を汚すまい。そう思うと笑いが止まらなくなるのだった。


つづく


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