
剣 21
さてもさてさて
とりあえず決着の刻を先延ばしにしている大沢美好。
しかし、、一体どうするつもりなのか?
どの道、一か八かの勝負ですから今が攻め時な気がします。必殺の剣がネタバレしているハンデはあれど、この玉千鳥相手に繰り出した訳ではありません。
秘剣中の秘剣、、果たしてその真価の程は。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あー面倒臭ぇや。」
余裕の笑みを見せていた大沢美好を前に、玉千鳥の男は急に詰まらなさ気に呟く。
(何だ、急に。)
美好は心に不安が芽吹くのを感じた。
「何で手前ぇと話し込まなきゃならねぇんだ。こいつ程
度なら簡単に殺れるんだからよ。」
玉千鳥の声が一段ストんと落ちた。美好の身体が意図せず震えた。刹那、何かが煌めいた。その光が美好の頬を掠めて、後ろの戸に刺さった。
(あっ、気を取られた、、)
そう思った時、今度は美好の身体が戸に押し付けられた。剣は身体に沿って握っている。前回の考えと同じく美好は、刃を体当たりしてきた玉千鳥の方へ向ける。偶然ではあってもそれが男の頬を裂く。
玉千鳥の男は一瞬唸ったが力を抜かずに美好の右側に取り付く。美好の握る刀は長い。ここまで近付かれてしまうと斬れはしない。しかも男の力は強い。
そもそも武士の剣を振るう筋肉はしなやかな物だ。力比べには向いてはいない。
玉千鳥の男は前に美好と殺り合った時の事を忘れてはいなかった。だから初手に美好の気を逸らす為に棒手裏剣の様な物を投げたのだ。
前は目の前に間合いを持って立った。しかし今度は息が掛かる程に間合いを詰めた。全ては美好を仕留める為の事だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
だが対する大沢美好という男は、武士と剣に理想と夢を見ていたが、それはあくまでも想像の産物に過ぎなかった。噛み砕くならば、ここまで近付かれる事なぞは考えてもいなかった。思い描いた自らの姿は、その前に男を斬り捨てているものしかなかった。
これが理想と現実の差と言える。美好には実戦経験が皆無なのだから、それはこうなる。
では、こうならなかった場合はどうするか?
「うわぁー離れろ!」
美好は男が小さな刃の様な物を手の指に挟んでいるのを見た。
(これが首筋を裂いた物だ。)
直感で分かった。分かってみたならば、頭の中には死にたくないという事しかなくなった。在らん限りの力で身体を揺らし、自然と刀を掴んだまま上に持ち上げる。持ち上げた所で斬れはしない。しないのだが、やはり大人しくなんて出来はしない。
結果、握り締めた剣の柄頭が玉千鳥の顎を打ち抜いていた。
「うわ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
無我夢中に自らの命を守ろうとした大沢美好。そこには理想としてきた武士の様はありません。
戦国の頃、剣を抜くのは相手の首を取る時でした。そこにあったであろう剣は、きっと今の美好の様になりふり構わぬものに違いなかったのでしょう。
形よりも結果。
無様でも美好は今、戦の中にいると言えましょう。
つづく