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剣 24

さてもさてさて

本日は種明かしの時。何故、この場に町奉行の捕り方は現れたのか?大沢美好は何をしたのか?

つまりは人の思考が柔軟さを取り戻した時、発想はどう変わったのか?それを伝えるのが、この物語なのですから。

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「医者は!医者はどうなりましたか?」

落ち着きを取り戻した大沢美好が町奉行所の者に尋ねる。皆川良源の事を言っているのだろう。

「我らの手の者が踏み込んだ時には、すでにもぬけの殻
 となっておりました。流石は裏稼業の者か、察した
 ので御座いましょう。」

皆川良源はきっと金だけを持って、すぐに逃げたのだろう。あの男がもし自分を狙っていたならば、生き残れなかっただろうなと、美好は思う。

夜の闇で生きる者には武士とも違う嗅覚があるのだな。
美好が装って構えを見せ、わざと詳しく解説した事。
それを見て、この縛られた男が見せたであろう顔。
それらが皆川良源に逃げろ!と伝えたのだ。

「では、また襲われますか、、」

「いえ、それは有りますまい。殺し屋稼業が身バレした
 なら、それは恥。江戸では仕事は出来なくなりまし
 ょう。」

「そういうものなのですか?」

「身バレは禁忌。決して有ってはならぬ事。もはや同
 業であれば相手には致しませぬ。界隈に知れ渡れば
 依頼も受けられぬ筈。」

「なるほど。」

確かに捨て駒かもしれなくとも、美好を仲間に誘うくらいなのだから、人手を増やすとて容易くは無い稼業なのだろう。そんな中で信用を失くすともなれば、廃業するしかないのか。

「しかも奴等は金にならぬ仕事は致しませぬ。わざわざ
 大沢殿を殺しに来ても一度失った信頼は戻らない。
 なれば江戸を離れて他で細々と稼業を続けるしか御
 座いますまいな。」

厳しい世界なのだな。それこそが戦国の世の武士の規律でもあったのだ。

(今の世の方が過ごしやすいな。)

美好は心から安堵していた。

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「しかし大沢殿のおかげで玉千鳥のひとりを召し捕る事
 が出来申した。此奴に吐かせ江戸の玉千鳥を一網打
 尽に致すつもりで御座います。」

「それは良い。お頼み致します。」

「心得て御座います。」

(本当に良かった。兄上に書状を書いて。) 

医者の診療所を後にした大沢美好は一旦屋敷に戻り、井戸の水を浴び身体を拭き下帯を取り替えてから、手紙を書いていた。

自分の身に起きている事を書き認めたのだ。ただし自らが辻斬りの真似事をしようとした事だけは省いた。そこまで書けば呆れられて読み捨てられるかもしれないと思った。まあ、怒られたくなかったのもある。

それをひとりだけ支えてくれている爺やに、兄の勤める勘定所に届けてもらったのだ。

兄上なら亥の刻、この場所に捕り方を向かわせてほしいという願い、無下にはしない筈だ。何といっても兄は自分には甘い。いつまでもそれで良いとは既に思ってはいなかったが、今は今を乗り換えてからしか何も出来ぬのだから、頼るに迷いは無かった。

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と、いうことがあったのです。

この時、過ぎ去りし戦国の武士に憧れ、勘定所勤めの兄を小馬鹿にしていた大沢美好は既に消えていたのです。

如何にして己だけの力で事を解決するか?
如何にして殺し屋たる者を殺すのか?
そんな考えも無かったのです。

当たり前に、怖いしひとりでは手に負えない、相手は罪に値するのだから捕まえた方がいいと考えていました。

今の武士はこれで良い筈だ。師の言葉通りに己自身に問い、生を願い、生きる事を尊重しようとしたのです。
そしてそれは自分だけではなく、熱を感じさせる命全てに向けられていたのです。


つづく

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