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剣 17

さてもさてさて

皆川良源の診察所で玉千鳥について尋ねる大沢美好であります。しかし何故、急にここを訪れたのでしょう。
朴訥に見える美好ですが、果たして本当にそれだけでありましょうか。まあ、あまり期待は出来ないでしょうが。

対する皆川良源は何やら目を細めている様子。

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「実は私、玉千鳥に狙われております。」

美好は真っ直ぐに言う。

「玉千鳥に!どうしてその様な事に。」

良源は心底驚いた様子で返す。

「見られたからというより、他にありませぬ。
 今夜、呼び付けられました。」

「して、どうなさるおつもりですか。」

「どうもこうも、行くしかありますまい。
 行かねば家族にも難が周る。」

良源が唸ってみせた。

「しかし、、それは死を意味しますぞ。」

今度は美好が唸ってみせる。

「それしかないのです。」

キッパリと言い放つその姿に、良源が訝し気に尋ねる。

「何か策でもおありか。」

「はい。師より御教え頂いた秘剣が。」

「秘剣、、ですか。」

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美好は膝をスッと前に出し、声を潜める様に言う。

「これは秘中の秘ですが、この構えを取ればいかなる奇
 襲にも対処出来るのです。」

良源がホウと息を吐き、顔をグッと近寄らせる。

「そんなものが、おありで。」

「この剣は戦国の必中剣。」

「宜しければ参考までにお聞きしたいものですな。」

「宜しいですとも。いや、実際にお見せいたしましょ
 う。」

そう言うと美好は立ち上がり、抜いた剣を構えた。

「何とも面妖な構えですな。」

「それが味噌。しかしその実、この構えからは無限に剣
 が放てまする。この様に!」

美好はその奇妙な構えから剣を振る。
剣は美好の背に真っ直ぐと隠れている。その表は胸を反り返らせ喉を見せ、凡そ急所と呼ばれる場を全て晒している。左手は腰帯の鞘の辺りにピタリと添えられていた。

どう考えても、さあ殺してくれと言っている様なものに見えるのだが、、室内である事からゆっくりと膝を折りながら振るその姿であれど、本来は全身のバネを使い鋭く繰り出されると想像出来た。

「成程、、あえて誘い刹那に斬るのですな。」

「はい。此度は殺し屋が相手。武士ではありませぬ。
 ならばこの隙を却って見逃さぬ筈。」

「はあ、、大したものですなあ。確かに武士でなき者に
 は思いもよりませぬな。」

「この剣にて玉千鳥を斬りまする。」

美好が笑顔で言う。

「その剣は落とすだけではなく、右左からも。」

「同じ速さで如何様にも。」

「何と。」

「先生は剣にも御見識があるのですな。この様に興味を
 持たれるとは。」

「いやいや、武には疎い故で。」

「腕も治りました。必ず勝って参ります。」

「分かりました。お戻りの際は是非お立ち寄り下され。」

「はい!では、御免。」

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そう言って大沢美好は場を後にします。
残された皆川良源が難しい顔をしていると、その後ろの襖がスゥっと開き男の顔が覗きます。この男の目は、何処かで、、、

「馬鹿な侍だぜ。折角の秘剣をわざわざ教えてくれると
 はなあ。」

「侮るなよ。眉唾かとも思ったが、確かに後ろも守って
 やがる。あれを本気で振ってきたなら、確かに早え
 ぇぜ。」

「侍ってのにも、俺らみてぇなマトモじゃねぇ技がある
 って事だな。」

「ここん所、道場に通い詰めてたのは、その為かもしれ 
 ねぇ。」

皆川良源はそう言うと再び目を細めております。
この二人が連んだ玉千鳥であるのです。


つづく




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