天空凧揚げ合戦 1

少しだけ涼しい風が吹くようになった気がする。
日中の熱を夜が吸い上げてくれてるのかもしれない。

秋月草太は手のひらにある朱い珠を見た。
この珠の中だけは熱を奪われてはいない。

ドクドクと朱が広がり狭まる。
その度に新たな熱を感じる。

「化け物の心の臓みたいなもんか。面白いもんだよな
 あ。まあ何でもいいんだ、俺の力にさえなりゃあ。
 握り潰されたくなけりゃあ、ちゃんと働けよ。」

秋月の家はもう既に無い。
甲賀が武家でなくなった時に失った。
だから草太は幼き頃よりずっと聞かされてきた。
もうありはしない家名を名乗り続けてきた。

「じっちゃん、ばっちゃん、親父にお袋。俺が秋月家
 を取り戻してやるからな。」

その為にも妖の朱い珠には働いてもらう。
徳川に一泡吹かせてやらあ!

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「いやあー困った!こいつぁー不味い!」

武家屋敷、とは言え古びた物だ。
日々手を入れてはいるが、家康様が江戸に入られる前の物だ。

捨て置かれた住まいは人の息遣いが無いと、こうも朽ちるものか。
柳生宗矩はこの屋敷に入った時、そう思ったものだ。

その屋敷の書庫と呼ばれる場所から出て来た中山鉄斎が悲鳴を上げている。

「鉄斎、騒がしいな。」

「あー旦那。そう言われましてもねぇ、、」

「何か分かったのか。」

「ええ、ええ、分かりましたとも。」

「そうか!この前の河童の様に上手くいくか。」

「旦那ぁ、それがねえ、、無いんでさあな。」

「何が、無いのだ。」

「弱みでさぁな。今度の奴にゃあ弱点が無い。」

「何と!」

「唯一見付けたのが、鯖。」

「鯖、、魚の鯖か。」

「鯖が苦手らしいって話ですがね、それでどうやれっ
 てんですかい?鯖で引っ叩きますかい?」

「鯖、、でか?」

「さて、どうやりますかねえ。しかも今度の奴は手が
 届かねえときたもんだ。」

「うむ。まずは地に引き摺り下ろさねば。」

「ですねえ。そこから考えにゃあ退治も何も出来ゃあ
 しませんぜ。」

「中々、敵も考えおるな。」

「感心してる場合じゃありませんぜ、旦那。 

 奴を地に落とす、、か。

 また人手が要りますぜ、きっと。」

鉄斎のその顔を見て、宗矩は感心した。
この男の頭には何やら絵があるのだ。
散々騒いで見せはしても、策の欠片がある。
宗矩の何気ない言葉から、何か見付け始めたのかもしれない。

中山鉄斎という男は、まさに奇想天外。
その無法の知恵と発想こそが、この柳生家にこの男がいる理由なのだ。

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どうやら、また何が起きているようだ。
妖珠より生まれた物の怪が何かしらを起こしている。
不穏な気が流れている。

、、、、、だが、

「美味えーーーーー!この卵を煮たヤツ!
 うどんの汁に沈めると、、あむ!

 また美味えぇーーーーー!」

勇也には全く関わり知らぬ事でしかない。

「気に入ってくれたかい、勇さん?」

「気に入ったなんてもんじゃねぇよ、信さん!
 うどんに茹でた卵がこんなに合うなんてよぉ!」

「まあ、夏も終わりだからねぇ。寒くなりゃあ、うど
 んの出番でしょ?何か色を付けたくてねぇ。」

「これからは、美味くて暖けぇ物んが欲しくなるもん
 なあ!こいつは、いいぜ!」

男二人が屋台越しに顔を近付けて、ニヤついている。

「ちょっと気持ち悪いよ。」

美代が頬を引くつかせている。
そんな所に、、

「邪魔するよ。人を捜してるんだ。
 人足頭の勇也って男が来てないかい?」

スラリとして手足の長い、身体が引き締まった女が現れた。


つづく
https://note.com/clever_hyssop818/n/n366e305d67c8





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