田中康介君の日常 3

自分の住んでいる周りに、川があるのは良いと思う。

水の流れる音を聞くと、何故だかウキウキする。
身体を前に後ろに小刻みに動かしてみる。
それに合わせて腕を振る。
膝をゆったりと曲げて、身体の流れに逆らわず、
軽やかに動いてみる。

普段はやれと言われても気が乗らないのに、夕方の土が焦げた様な風の匂いと、心の染みさえ洗い流してくれそうな水の音が、自分の中に根付いている動きを自然と呼び出した。

元々、身体を動かすのは嫌いじゃないんだ。
動いてみれば、やはり気持ちが軽くなる。

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「ねえ?それ、何の動き方なの?」

そんな自分の気持ちに浸ってたんだろう。
掛けられた声の主の存在に、全く気付いていなかった。

その事がサッと自分の身体を回し、それまでと違う顔にさせた。

「そんな睨まないでよ。スゴいなぁと思っただけなん
 だから。」

声を掛けてきたのは女の子だった。
自分の高校と同じ制服を着ている。
ブレザーに普通の長さのスカート。
そんなに長くない髪はポニーテールに結んでいる。
ビジュアルは美少女だが、見た事ないなと思う。

まあ特に友達を多く作りたいと思ってはいないから、例え同じクラスでも話さない人はいる。

実際毎日話すのは、幼馴染の紗代子くらいだ。
それだって、地味だ!クールだ!と言われるくらいの話しだから、会話といえるんだかどうか?

「あたしさ、引越してきたばっかでさ。
 色々と新しい町を見て歩いてたの。」

相手が勝手に喋ってくれるから、ちょっと構えたままでも、いつも通りに聞き役に回った。
その子は特に笑顔でもなく、話しながら段々と近付いてくる。

「そうなんだ。で、どうだったの?」

「川があるのがいいね。水の音が落ち着く。
 それに土手があって、そこに不思議な動き方してる
 男子がいるんだもん。」

「水音に落ち着いた後に、それ!?」

「面白いよね。
 何か、あたし、この町は好きになれそうなんだ。」

そいつは良かったね。
と思った時に突風が吹いた。
しかも局地的に。
正確には自分の頭付近で。

「あーあ、間合いを取られた!」

そんな風に思ったが、気を抜いてなかったおかげで、いや、、ちょっと違うんだけど、、

とにかく髪の毛が揺れる距離で躱せていた。

「やっぱスゴいね!そんな気がしたの!
 今ノーモーションで蹴ったんだよ。
 そんなちょっと頭を下げて躱しちゃうんだ!」

女の子は初めて笑顔を見せた。

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「あたしキックボクシングやってるんだ。
 君みたいな人、初めて。
 いつもここにいるの?
 ここで練習してる?」

息を整えて、なるべく平らに返す。

「たまたまだよ。

 それにさ、何か勘違いしてない?
 僕はただ身体を動かしてみてただけで、練習なん
 てしてないよ。

 ただ夕方の感じに乗っかっちゃっただけ。」

「へえーそうなんだ。
 分かった!
 また会えたら、その時は宜しくね。
 あたし、強いって何だろう?って捜してるんだ。」

そう言うと、彼女は土手を上がって、夕方の揺らぐ空気の中に消えていった。

その後ろ姿を見送って、また変な知り合いが増えたのかも?とボンヤリ思った。


つづけてみる。


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