邂逅罪垢火焔演舞 12
「周りにいる者全てが己が道具か、、
武士が陥りやすい事かもしれぬ。」
「旦那ぁー!
今は物思いに耽ってる場合ですかねぇ。」
「お父ぅ、、痛いよぉ、、」
「うるさい!黙れ!
お前は物の怪だ!
とっと此奴らを始末せえ!」
「物の怪、、お父ぅ、、」
「その形を見よ。
娘の顔をした火の物の怪、それがお前だ!」
「あたしは、、物の怪、、」
「死んだ娘は戻らぬ!
何故、娘の真似をするかあ!」
「あたしは、、小絹、、
一度死んだ、、死んだ、、あっ!
あぁ死んだ、斬られた、こいつに!
殺されたあーーーーーー!!」
より一層、空気がビリビリと震えた。
その声が江戸の町中まで届いていた。
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炎が巻き上がる。火車の身体をその炎が包む。
その小絹だった顔は、目が吊り上がり口からは牙が見えた。
火車であり、小絹でもあった存在は
その微妙な配分をカチりと噛み合わせた様だ。
牙の隙間からは白い息、熱く狂った湯気が吐き出されていく。
烈行はその熱と、まさしく凶悪な物の怪の姿に
怯えを浮かべ後退りする。
その刹那を宗矩は見逃さなかった。
脱兎の如く駆け、その動きの中でも刃の角度を狂わせずに薙いでみせた。
「えっ?」
烈行はその宗矩の動きに気付けなかった。
気付けたのは、腹から腸が溢れ出す異様な感覚だけだった。
「ああ、これが本物の武か。
着物の上から人を斬るのは容易くは無い。
刃が滑るんだ。
だから俺は金を奪う為に人を殺す時は刺した。
短い脇差しで、近付いてから刺した。
こんな風には斬れないからだ。
戦場では鎧の繋ぎ目を刺すのだから、これが実践的
なのだと言い訳した。」
刹那の刻に烈行の思考は走っていた。
そしてその身体から力が抜け始めた。
グラりと視界が捻れた。
そこに火車に対する澪の姿を捉えた。
「あの女の背に無数の死人の顔を見た気がした。
あの女まともじゃない。
そうか、だからか!
武人とは皆、そうであるからこその者。
俺には、、無かったか。」
「お、おとう、、」
火車は燃え盛る身のまま倒れた烈行に歩み寄っていく。
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「おとぅ?」
「来るな、、来るな、物の怪、、」
怯えた目で掠れた声で、烈行は懇願する。
火車はその烈行の前に膝をつく。
「来るな、、」
火車がジッと烈行の顔を見つめる。
「化け物めぇ、、」
「違う、、おとぅなんかじゃない。
お前は、、」
火車は穏やかな声で言いその手で烈行の顔に触れた。
その炎は瞬く間に燃え盛る。
「お前は罪人だ。」
これが本来の火車の力か。
その炎は消し炭ひとつ残さずに烈行の姿をこの世から消していた。
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「あらまあ、術者を消しちまったよ。
あんたも消えるってのに。」
「いや待て!」
火車の炎がまた強さを増していく。
「あらまあ、こいつは真実物の怪って事か。」
「何だ?
あの朱い石から生まれる物の怪は成長するのか?」
「また鉄斎に頭を捻ってもらうとしますか。」
「澪。」
「はい、旦那。」
「殺るぞ。」
澪は妖艶に笑って見せた。
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「こいつは五月蝿えから、使うまでは縛って袋被せと
こうぜ。」
勇也は太助の持つ棒の先端を縛った。
「勇也さん、これならすぐ分かりますねぇ!」
太助は笑顔で答えた。
「ん?嬉しそうだな。」
「か、火事は皆んな不幸になるんですぅ。
早く止められたら、皆んな嬉しいからぁ。」
「そうか。そうだな。」
「田舎でぇ、小せぇ頃にぃ、火事になってぇ冬場に投
げ出されてぇ、、
あん時のぉ、不安なぁ震えたぁ気持ちぃ
忘れらんねぇんですぅ。」
「そんな事があったんだなあ。
良し!そんじゃあ張り切って行くかあ!
なあ、お前ぇらぁー!」
「任せろ、頭ぁ!
おらも寒かったんでぇい!」
「留!他の皆んなに同じ思いはさせらんねぇな。」
「見周り行くんでぇい!」
勇也たちは眠りに包まれた江戸の町に繰り出して行った。
つづく