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剣 6

さてもさてさて

人を斬ってやろうなどと大層宜しくもない思い込みで夜に繰り出した大沢美好。まさか自分が命の危機に直面するとは露ほども思っていなかった次第。
頭の中だけで考える事が上手く運んだとしても、厳しい現実はそれを受け止めてくれるとは限りません。

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(受けてから払う。まずは我が身だ。)

そう思いを決めた時、美好の頭に疑問が浮かんできた。

(待て、相手は武士ではない。先程もどうやってか首
 筋を裂いた風。剣と同じと思わぬ様にせねば。)

美代は剣先を更に己の身、首の右辺りに刃を外に向け引き寄せた。

(首周りに気配があれば剣先で捌き突く。左ならば身
 を捻り同じく動く。)

「へえーよくは見えなかった筈だってぇのに、上手い
 事考えるもんだねえ。」

奴の吐息が聞こえた。じりじりと俺の周りを回っているか。

「あんた腕が立つって訳かい?さぁて、どうかねえ。
 どうにもそうも思えねぇんだがな。」

何だ?急に饒舌になったか。
話し過ぎれば居場所がバレるやもしれん。
なのに、、何故喋る。

「そうだなあ、あんたは剣の修行に精を出してはきた
 が、人を斬った事は無い。どうだい、当たりだろ?
 ただ、頭も悪くない。場数を踏めばこ慣れてくるっ
 てトコかね。」

声がぐるぐると回っている。先程までは何処から聞こえるのか見当も付かなかった。が今は、自分の周りを円の様に動いているのが分かる。

自分が落ち着いたのかとも思うが、それは違う。
わざとやっているに違いない。惑わし焦りを誘うつもりなのだろう。追い詰められた気になれば、相手の誘いに迂闊にのってしまう。そこに出来る隙を狙うつもりだ。

(そうか!剣ではないのだ!奴は隙をついて不意打つ
 しか無いのだ。奴の得物は堂々と渡り合える代物で
 はないのだな。)

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早い話が大沢美好は、開き直ったと言えましょう。
自分は強いという暗示を掛けた様なものですから、不思議と余裕めいたものさえ生まれて参ります。冷静になれば相手がどう出てこようとも対処出来る筈。思い込みというのは、中々に侮れません。

対する相手も美好の具合を落ち着いて伺っております。 
息も上がり慌てふためいていたくせに、急に様子が変わったのです。
わざと揺さぶりを掛け探ってみせるが、その間に美好の頭が整理されていく。どうにもこの男の素性が読み切れません。これでは埒が明かない、、

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(いつまでこうしているつもりか?)

それでも場数の少ない、いや全く無い美好は僅かに焦れていきます。

(ここよ!)

相手の影は、その隙を見逃しはしません。美代の斜め左後ろからサッと飛び出し、その背に取り付こうとしております。

僅かな風の流れを感じ両の掌に力を込める美好。

果たして決着は如何に。


マブ





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