天空凧揚げ合戦 3

「だからよお、鉄っあん。
 また知恵を貸してくんねぇか!」

中山鉄斎は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
勇也が天狗退治の話をしに来たのだ。

そう天狗。
柳生屋敷で鉄斎が頭を悩ませていたのも天狗だ。

勇也が天狗退治をしようとしている。
この男は物の怪に縁でもあるのかねぇ。

「分かった、分かった、話は分かった。
 でもよぉ勇さん。今度は河童の時とは違うぜ。
 天狗は殺しに来てるんだろう?」

「分かってるぜ、鉄っあん。
 でもよ、河童の時だってな。放っておいたらよ。」

「人が死んでたなあ。」

「今度はよ、もう始まっちまってる。
 だから早く何とかしねぇと、俺だって鉄っあんだっ
 て美代だってよお!」

「確かになあ。今は公儀の飛脚を狙ってるってだけだ
 わなあ。いつか町の連中を襲うか。」

「だろ!?」

鉄斎の目が鋭く光った。
ああ、そうだ。
ちょうど人手は要るとこだった。
勇さんに賭けてみるか。

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「どうです?少しは痛みが取れましたかい?」

「ああ、楽になってきた。」

皆川良源が怪我人を診ていた。
深く斬られた傷が間を開けず並んでいる。
こういう傷は縫う事が出来ない。
だから治すにはじっとしているのが得策なのだが。

「しかし旦那も無茶をしなさる。傷も治らない内から
 河童退治に出張るなんて。」

「儂にしか出来まいよ。大阪城で般若を見た儂にし
 かな。」

この怪我人、服部半蔵である。

「そんなにお一人で背負わなくてもで御座いましょう
 よ。」

「ふむ。しかしな、、般若に手も足も出ずに逃げ帰っ
 た身としてはな。」

「般若の爪ですかあ。間を置かずに斬られた傷っての
 は塞がりにくい。手強い相手に死なずに済ませたの
 も腕で御座いますよ。」

「そう言われると、、助かる。」

半蔵にも矜持があるのだ。
伊賀忍軍を従え、家康より江戸の護りの密命を受けているのだ。

それがふとした事から大阪城で物の怪を見る事となった。
その物の怪が江戸破壊を目論んでいる。
ならば食い止め闇に屠るのが役目である。
それが叶わず、逃げ落ちたとも諦める訳にはいかぬ。

だから隠れ人と呼ばれる者とも協力しているのだ。

「また出張る気ですかい?」

「うむ。天狗となれば忍びの跳躍が必須だろう。」

「飛んでる相手に跳んで挑む訳で?」

「我らは空は飛べぬからな。江戸を出る辺りは林だ。
 それを使うしかあるまい。」

「まあ、そう焦りなさいますな。
 鉄斎も何やら策を見つけたと聞きました。」

「何?宗矩殿からか。」

「あの方は腰を使い過ぎましてね。昨日治療にいらっ
 しゃいましたよ。」

「やれやれ。妙な女に入れ上げたものだ。」

半蔵は苦笑した。
だが、こんな風に笑えるのを悪くは無いと思った。

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天狗。
天を行く者。
飛脚。
地を駆ける者。

なるほどなあ。

一筋縄にゃあ行かないんだろうが、、
二手三手と絡めていきゃあ、地に落とせるかもしれねぇ。

その上で天狗の妖珠を持つ者も斬らにゃあならねえ。

総掛かりだな。
それしかねぇなあ。

中山鉄斎の頭の中を幾つかの策が巡り行く。

その上で鯖で引っ叩いてやらぁな!
暗闇に光が差した気がした。

要はよ、空を飛ぶ天狗より早けりゃあいいのよ。
それなら、何とかなる。

鉄斎は瞑っていた目を見開いた。


つづく
https://note.com/clever_hyssop818/n/nba6d476b225e

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