見出し画像

こわくない

ゲホッゲホッ
う゛っうん…。
失礼。

いやぁ、外は暑かったですね。
この中はしっかり冷房が聞いてるみたいで。
まだ6月なんて信じられませんね。
はは
それこそ、これだけ暑ければ怪談界隈もより
盛り上がってくるでしょう。

こういう会に参加されてるわけですから、貴方はもちろん、怪談が好きで?

へえ、最近はまった・・・・と。

お好きなのは?ああ、あの方ですか。

今でこそ複雑な話が持ち味の彼ですが、最初は都市伝説だったり、ありふれたお話をよく話されていて…

ああ、
これは古参アピールってやつに
なるんですかね、
はは。


それで、この怪談好きのオフ会に参加されたと。
ええ、私は長くオカルトとかが好きで。
ははは。

そうそう。今回のテーマは怖いと感じるもの、でしたね。

貴方は?…そう、女性の霊、ですか。
怨霊といった類いが怖いと。
ははは。

分かります。私もそうでしたから。

え、私ですか。
私は、
笑顔の人が怖いんじゃないかって
思い始めてる
んですよ。
…え?なかなかないですねって?
ははは。


そうですよね。
いえ、いえ。
奇をてらってるわけではないんですよ。
はは。

厳密に言うと、
笑顔の人なら怖いって思えるんじゃないか
という感じなんです。ええ。
…ゲホッ

すみません、最近喉の調子が良くなくて。
ゲホゲホッ…。


失礼、失礼。
ははっ。
…私、怪談好きになってだいぶ経つんですよ。子供の頃から大好きで。
はは。

昔ってゴールデンタイムにも心霊番組とかやってたんですけど、
お金や時間にゆとりが出始めた社会人になったとたん、そういったものがテレビから姿を消したんですよね。


森の中の湖畔みたいな静けさでした。
世界から心霊や怪談が消えて、ゲホッ
書店を見ても自力では数冊しか見つけられないみたいな具合で。
欲求不満とはこのことかと。
はは、ははは。


そんな中、空前の怪談ブームが起きました。
そうそう。貴方が動画サイトで怪談動画を見かけるようになった時ぐらいですね。
はは
そこから餓鬼のようにありとあらゆる怪談を貪りました。
最高でしたよ。
はははは ゲホッ

ブームの良さって、その物の供給が増えることもそうなんですけど、ゲホッ
受け手も貪欲に目や耳が肥えてくるから、飽きられないようにって斬新なものが
次から次に生まれるじゃないですか。

最初こそ、背後に女の霊が~みたいな
あはは
王道のものが多かったのに段々と、
実はその村の因習が絡んでた、
とか、
普通だと思っていた人が実は取り憑かれてた、
とか。ゲホッ
斬新な話が増えてきて。

そういった新しいパターンの怪談が増えたのって、怪談師さんの情報収集の賜物だとは思うのですが、
聞き手が怪談慣れしてきたおかげで、ようやく世に出てくることが出来た、なんて側面もあるんじゃないかと思うんですよ。


今でこそ人気の、
後味がすっきりしないもやもや・・・・する話って、
ゲホッ
昔は面白くないって切り捨てられてましたけど
王道が語り尽くされてきた今、
そのもやもや・・・・がよりリアルで面白いってなってきたじゃないですか。
ははは


慣れてくると新しい刺激が
欲しくなるのって、娯楽を受けとる人の内側で
当たり前に起こることなんです。
はははっ


そう、色々と聞き尽くした結果、
私は物足りなくなってしまったんです。

心霊を楽しみたい、怪談を聞きたい、
そう思って新しい話を聞いたりするのに
ゲホッ
心は凪で「ああ、なんか聞いたことあるな」ってなってしまって。
それこそ王道の話なんて、
もう、桃太郎ぐらいの童話にしか聞こえないんですよ。ゲホッ

そこでね、私、“怖い”を感じたくて
心霊スポットに突撃する動画を見始めました。

これだ!と思いました。
ゲホゲホッ
何が起こるか分からないスリルと
たまに映る不可思議な現象が
たまらなかったです。

だけどね、
はは
それもすぐ飽きました。

だから、今度は、自分が体験する側に
なろうって思ったんです。
はは
そうです。
心霊スポットに行くことにしたんです。


暗い夜道を目的地まで歩いて、
誰もいない荒れ果てた建物を探索する…
最高に刺激的でした。

でも、止めてしまいました。

なぜって、
何も怖いことが起こらなかった・・・・・・・・・・・・・・んです。
最後に行ったゲホッ
廃神社ゲホゲホッでゲホッ
酷く期待を裏切られましてねぇ~
はは

ご存じですか?
●●ゲホゲホッっていう廃神社。

はは
実は有名なところではないんですよ。

ちょうど、1ヶ月前の5月頭だったかな。

それこそ、都内の心霊スポットを
行き尽くしたので、
ゴールデンウィークを利用して
関東から飛び出し
東北の某心霊スポットに行こうとしたんです。


■■県にある廃業した遊園地なんですけど…
ああ、これはご存じでしたか。
有名ですもんね。

新幹線で行って現地のレンタカーを借りる計画を立てまして。

駅の東口のショッピングモールにある
カフェでコーヒーを飲んでいたら
近くに座っていた老夫婦に声をかけられまして
朗らかな顔にほだされて
これも旅の楽しみかなって話に花を咲かせました。

そこでポロっと心霊スポットに
行く話をしてしまったんです。
彼らはどうやら地元の方らしくて、
最近の若い人はそんなところに進んで行くのかって
ははは
笑いながら、
だったら、●●ゲホゲホッっていう廃神社があるからゲホッ
そこに行ってみたらどうだって
言われたんです。


なんでも、
元々御霊信仰の一つで建てられた神社らしくて
そこに行けば祟られると地元では有名で
誰も近寄らない場所だ、と。

実際にそこに行ってから病に倒れた人がいたり
女の霊を見た人もいるみたいなんで
ほんとに危ないところだって言うので
これはそっちの方が面白そうだって
行き先を変えることにしました。

旅館にチェックインして、夜に抜け出して
老夫婦から教えてもらった道を行きました。


人の家がない、田んぼしかない道をずっと
走って、霞んでいた山が次第に輪郭をはっきりとなってきて、ヘッドライトで鬱蒼と茂る木の葉一つひとつがはっきりと見えるぐらいに山に近づいたぐらいで、
ぽっかりと不自然に開いた穴の中に山の中へと続く石段を見つけました。

ああ、これが言っていた神社への入り口かって。
脇道に車を停めて、懐中電灯を持って
照しながら進みました。

雪国だからか肌寒くて、
虫一匹飛んでいなくて
私の足音だけがザッザッと響く…
これはなかなかにスリルがあると
ゾクゾクしました。

この山道を歩く感じは、■■っていう配信者が上げてた動画に似ているななんて思ったりしましたが。
久しぶりに、恐怖を体験できるって
わくわくしましたね。
はは


そうすると、唐突に石で出来た鳥居が現れました。
社務所なんてない、ただ小さなお社があるだけの神社でしたが、屋根にたまった腐りかけた枯れ葉の感じとかが、
最高に良い雰囲気でしてね
はは
私は懐中電灯を消して、
老夫婦が言っていた霊がでないか
待つことにしたんですよ。

ところが、ゲホッ
どれだけ待っていても、何も起こらないんです。ゲホゲホッ
ラップ音だったり、人の気配みたいなものだったり、そんなものさえも感じなくて。

私、とってもがっかりしましてね。
思わず舌打ちをしてしまいました。

最後、せめてもの記念にって
社を写真で撮って
旅館に帰りました。

その後もなにかあったかっていうと
何もないんです。

ほら、障りがあるとあの怪談師さんみたいに
突然熱が出たり、大怪我したりするもんじゃ
ないですか。
それさえもないんですよ。

ほんと、がっかりで
心霊スポットに興味がなくなりました。

え?その時撮った写真ですか?
ありますよ。
でも、何も怖いものは写ってないんですよ。




ね、何も写ってないただ赤いだけの写真でしょ。

ほんと、期待して行ったのに残念で
冷めてしまいました。ゲホッ


これだけ何も怖くなくなってしまったから
今回、みんなが思う怖いものを語り合おうっていう、この怪談好きのオフ会に参加したら、もしかしたら何か怖いものが
見つかるかもって思ったんですよねぇ。
ははは

ですからね、私もうあまり何に対しても
怖いって感じなくなってるんですよ。
もう怖いのは笑顔の人ぐらいかなって。
はは
その笑顔の裏に狂気があるんじゃないかなー
みたいな。

私の話はいいので、
良かったら貴方の話をー…


…ん?



あれ、どうしたんですか?
そんな強ばった顔をしてゲホッ
そんなただの赤いだけの画面を凝視して。

お社だけを写しただけなのに
ゲホゲホッ
赤色しか写らないのはおかしい、と。
はは
たしかにそうですね。

でも、
それって…

怪談ではよく聞くことじゃないですか。


事実、ほら、ベテランの怪談師さんが話していたぐらいですもん。


はあ、貴方はこれを怖いと感じるんですね。


…え?
それだけじゃない?

…女の顔が見える?
こちらを睨んでいる?

しかも、画像の中にゲホッ映ってる女ゲホッが
私の後ろに立っている、と。

そして、
私のゲホゲホッ首をゲホッ
鬼の形相でゲホッ絞めている、と。
ゲホゲホッ

だから、貴方は怨霊が怖いと言ったって?
はあ。

そう…ですか。

ゲホッ

それは



ありきたりで、こわくないですねぇ。
はは。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?