■■神社に届いた手紙
愛知県にある■■神社は
小さくも地元民から愛された
由緒ある神社だ。
そこで神主を務める70代のKさんが
私の家にやって来て、
「この間こんな体験をして…。」と
話してくれたことがある。
ある日、お賽銭の精算をするために
神主であるKさんが賽銭箱を開くと
こんな封筒が入っていた。
封筒を見て正直Kさんは嫌な予感がした。
というのも、こういう手紙は大抵
誰にも言えない悩みや恨み言が書かれている
からである。
お焚き上げしようか、どう処理しようかと封筒を裏返す。
裏面にKさんの目は釘づけとなった。
裏面にある住所は
神社のある場所からすぐ隣の市で、
Kさんもよく知る場所だった。
差出人の苗字も聞いたことがある。
だが、Kさんが気になったのはそこではなかった。
『全てお返しします
ゆるしてください』
この言葉に思い当たることがあったKさんは
自分の予想が合っているか確かめるため
中身を確認することにした。
中から万札が出てきたのをみて、
Kさんはやはり、とため息をついた。
実はこの■■神社でつい最近
賽銭泥棒があったのだ。
「先月末ぐらいにですね賽銭箱を
確認したところ、明らかに金額が
少なくてですね。
あれ、もしかしてと思いました。
まあ、じきに返しに来るだろうと
警察に届け出ることはしないで
様子を見ることにしてたんですよ。」
笑い皺のある気弱そうなKさんは
そう言ってへらりと笑った。
予想通りお金が入っていたことに
彼はやっぱりと思うと同時に
少し悲しい気持ちにもなりながら
懺悔が書いてあるであろう手紙を広げた。
「それがこの手紙なんですけどね。」
Kさんが見せてきた手紙に、
私は固まってしまった。
『おさいせんをぬすんだのは私です。
本当にすみませんでした。
このとおりお■かねはかえしますので
どうかゆるしてください。
あれから部屋に水がしたたるようになり、
たたみはや■ぶれ床がくさり、
悪臭がたちこめるようになって
そこからウジがわきまして
愛犬の(※)を( ※ )ました。
さらには子供の笑い顔と
( ※ )でねむ
れなくなりました。
どうかおゆるしください
ゆるしてください
ごめんなさいごめんなさい
(以下これの繰り返し)』
※残酷な内容のため伏せた
お賽銭を盗むという罰当たりな行為をしたとはいえ、差出人の身に降りかかった身の毛もよだつ現象に私はゾッとした。
文字の線は震えており、手紙の下半分を埋めるごめんなさいの文字に、差出人の後悔が伺える。
「本当に、
神様に悪いことはするものでないですね。
この人、相当やられてしまってますね。」
私がそう返すとKさんは頷いた。
「ほんとそうですね。
書き間違えをする程ですから。」
「書き間違え、ですか?」
ほら、ここ。とKさんはある一文を指さした。
「ここ、本当は笑い声って書きたかったんでしょうけど、笑い顔になってるんですよ。
気が動転するほど追い込まれたんでしょうけど、そもそも罰当たりなことをしなければこんなことにはならなかったのにって思いますね。」
「ああ、なるほど…。」
そう言いかけて私はある違和感を感じてKさんに問いかけました。
「あの、なぜ
笑い声と書こうとしたって
分かったんですか?」
Kさんは笑い皺のとおりに目を細めて
口を三日月状に歪め、
よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに
子供のような無邪気な声で言った。
「だって、今までの手紙には
笑い声と書いてありましたから。」
■■神社では、監視カメラをつけることは考えていないそうだ。