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【実話】翼人を見た話

2021年の10月初旬
この時、私はまだ介護士として働いており
職場のある隣のA市へと車を走らせていました。


隣とはいえ、私の家と職場は
お互いの市の端と端にあるといったぐあいで、それなりに距離があります。

加えてA市は、山と海に挟まれているからか太い川も多く、地面を走る市町村道を走ると橋に当たることもあり、通勤ラッシュには渋滞に巻き込まれることもしばしば。


そのため、田舎の町どうしの移動でありながら
A市にはわざわざ国道の高架道路を渡って通っていました。



いつものように隆起した道路にアクセルを踏み込んで進入し、高架道路を走ります。

遅番(お昼から夜中までの勤務形態のこと)だからか、車はまばらでした。

おかげで視界が広かったため、
遠くにある、空の色に混ざるほど淡い色でかすでいたA市の山が、近づくのに合わせて徐々に大きさを増して色濃い緑色に変わるのをまじまじ観察できるほどでした。


2つ目の出口で降りる、そんな時だったと思います。

私は、出口を通り過ぎないために、スピードを少し落として視線を左側に集中させていました。


晴れ渡った青い空には、まばらに白い雲が浮かんでいます。

その中のひとつの雲に私の視線は釘付けになってしまいました。


ほとんどの雲が平べったく伸びていたり、
煙のように曖昧な形をしている中で、
その雲だけが、綺麗なまん丸だったのです。

しかも、他のどの雲よりも真白く、真珠のような光沢を放っていました。

遠くの空に見つけたので、実際の大きさは分かりませんが、ちょうど小指の爪程の大きさの球でした。

あれはなんだ?
アドバルーン?飛行艇?そんなものこの場所では今まで見た事がない。

私はそれから目が離せなくなっていました。


「な、なんだあれ?」


ただ浮かんでいるだけだと思っていた球体が動き出し、思わず声を上げてしまいました。


球体は、徐々に雲特有の優しい自然な白色からかけ離れた、若干黄色味を帯びた乳白色になり、光沢を増してゆっくりと下降してきていたのです。


よく見るとそれは、タイヤのように高速で回転しているようでした。


ぐるぐるぐるぐる…

回転しながら球体は膨らみ、
形が崩れていきます。
雑に丸めたティッシュが綻ぶ様と同じ具合に。


次第に回転のスピードが遅くなり、私の目でも今何回転しているか分かるようになりました。

ぐるん、ぐるんっと2回回ったと同時に、
玉は崩れ煙のように細くなり
それは翼が生えた人の形になりました。


先程まで小指の爪ほどしかなかった玉は
人差し指程の大きな人型になったのです。


顔も髪の毛もないのっぺらぼうで、
全体は鈍い光沢の水銀のような灰色、
背中から生えているであろう翼は鳥のそれと言うよりは、
飛行機の主翼のように羽がなく体と同じツルッとした何かでできていました。


その翼人はゆっくりと手を広げました。

すると、左足から2つ眩しく発行する光が
ぽっぽっと生まれ下降し、
2回点滅したのち翼人とともに姿を消しました。



ここまでが、体感時間では長く感じましたが、実際は恐らく20秒ほどの短時間でおきた事だったと思います。


私は呆気にとられて、しばらく自分が見たものを信じられず、ただハンドルを握ることしか出来ませんでした。


こんなことを言っても頭のおかしい人間だと思われると考え、誰にも話さないように努めましたが、今見た光景は記録に残さねばと、
勤務時間前にそこら辺にあったメモに、翼人の様を書き、写真を撮りました。



勤務先で慌てて書いたメモの写真


このメモ自体はどこかにいってしまったので、写真を撮っておいて良かったと思います。


私がこの翼人を、天使と意地でも呼ばないのは
それがあまりにも無機質で冷たくて感情がなくて、神聖なものというよりも、何かに作られた機械のような印象を受けたからです。



はたして、私が見た翼人は一体何者だったのでしょうか。
未だに謎です。




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