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KOMATSU流スナップ写真

 スナップ撮影をはじめてからどれくらい経っただろうか。スナップ写真機であるFUJIFILM X100Vを購入したのが、2021年の9月だったので、そこから計算すると2年近くになる。FUJIFILM X-Pro3を購入した2022年10月からは、スナップ撮影に特に集中していた。とにかく、この2年という節目において、自分の中での「スナップ写真とは何か」を整理しておきたいと思う。

・感ずるがままに写真を撮る
 「スナップ写真」と聞いた時、あなたはどのような写真を思い浮かべるだろうか。森山大道やブレッソンなどスナップ撮影の名手の写真を思い浮かべたり、具体的な被写体(都市風景や田園風景、街ゆく人々、街に映る光と陰など)を思い浮かべる人もいるだろう。街中で自ら声をかけ、その人物を魅力的に即興で写す、ポートレイト撮影も、ストリートスナップとして、最近SNSでよく見かける。このようにスナップ写真は被写体も様々で、解釈の幅も広い。
 私の中での「スナップ写真」とは、『自分の「あっ」を撮影した写真』である。上手く名詞的にまとめることはできなかったが、この表現が自分の感覚に一番近い。
 街へ出かけると、いろいろなものが目に入ってくる。その中で、「あっ、いいな」、「あっ、綺麗だな」、「あっ、かわいいな」、「あっ、不思議だな」、「あっ、おもしろいな」、「あっ、あったかいな」と感じることがある。私の場合、これらを感じただけでは気持ちに収まりがつかず、サッとカメラを構えて、シャッターを切ることで、これらの「視覚により入力された悦び」を噛み締める。
 先に列挙した感覚は、常に自分たちはもっていて、カメラを持っているか否かに左右されず、写真とは元来離れたところに存在する。構図の決定や撮影時の設定、撮影後のレタッチ、機材の性能などの写真用の諸々は、仕上がりに重要な役割を果たす。それはもちろん承知なのであるが、私はカメラを握る前の段階の「感ずる」部分が、スナップ撮影において最も重要だと思う。その被写体や場面が写真的に良いか、悪いか(例えば、映える・映えない)を考えて撮るのではなく、感ずるがままに、惹かれるがままに撮る。

・使用機材
 スナップ撮影に使うカメラは、もっぱらFUJIFILMのX-Pro3である。レンズは『FUJINON XF27mm f/2.8 R WR 』か『Voigtlander ultron 27mm f/2』を使用している。いずれのレンズも全長が約3cmの薄型で、X-Pro3によく似合う(図1)。軽量かつコンパクトなシステムは、スナップ撮影で特に効いてくる。コンパクトなカメラであれば、通学時など「写真を撮りに行く」目的ではない時にも気軽に持ち出すことができる。また、軽ければ長時間街を歩き回っても、カメラの重量のせいで疲れることが無くなる。

図1 X-Pro3 with Voigtlander ultron 27mm f/2
外観もお洒落で、街に溶け込みやすいカメラ

傑作を撮るためには、ひとつだけのルールがあります。それは、いつもカメラを持っていること。レンズが軽くなければ、いつも持っていられない。美しく写らなければ、いつも持っていたいと思えない。

 https://fujifilm-x.com/ja-jp/products/lenses/xf27mmf28-r-wr/

FUJIFILMの『FUJINON XF27mm f/2.8 R WR 』の商品ページに上記のようなフレーズがある。私はこれに強く共感をする。軽さや持ち出しやすさは場合によっては正義になりうるのだ。
 ところでレンズの焦点距離であるが、私はこの27mm(フルサイズ換算40mm程度)がとても気に入っている。この焦点距離は、巷では「退けば広角、寄れば標準」と呼ばれており、使い勝手が良い。個人的にこの画角は、構図を作る時にギリギリ余計なものがフレームに入ってくる絶妙な画角だと思っている。広角だと余計なものが入りすぎ、逆に望遠に寄ると余計なものが入らなくなり、メインの被写体が孤立してしまう。ギリギリ余計なものが入るこの画角は、副題の整理がしやすく、撮影時に偶然フレームに入ってくる被写体を味方につけやすい。

・撮影時の設定
 
 設定はいたってシンプルで、絞り優先ISOオートで撮影している。シャッタースピードはオートだが、1/80秒より長くならないようにしている。表現として被写体ブラしたい、動きを表現したい場合や暗所を除いて、基本的に被写体はとめる.ことを意識している(歩きながら撮ることも多いので、手ブレしないようにという意図もある)。絞りに関しては、その場の光量やピントの幅の要求性に応じて変化させる。
 FUJIFILMのカメラの魅力の一つであるフィルムシュミレーションは、クラシック・クロームやクラシック・ネガ、アクロス(モノクロ調)をよく使う。その日の気分や天候、光量、街の雰囲気に応じてベースとなるフィルムシュミレーションを決めて、あとは被写体に応じて変えていくといった感じだ。撮影時に設定を追い込むため、撮った写真をレタッチすることはほとんどない。

・第三者から見たスナップ写真
 第三者から見たスナップ写真はどうなのだろうか。少しエピソードを交えながら分析したいと思う。
 いつかの夜、串カツ屋で食って飲んだ後、酔い覚ましもかねて京都御所のベンチで友人としばし話をした。内容は様々だったが、その中で写真についての話題になった。友人は特に写真を趣味としているわけではないが、有難いことに私の写真集や投稿した写真を見てくれている。ちなみに私の短い写真人生の大部分を占めているのは、野鳥写真とスナップ写真であるが、友人は「もちろん野鳥写真も良いのだが、スナップ写真の方が俺は好きかな」と言っていた。友人の言い分を端的にまとめると、野鳥写真は「可愛い」の一言に尽きてしまうが、スナップ写真は撮影者である「わたし」の着眼点をはじめとしたユニークさが味わえる、とのことだ。
 確かに野鳥(ここでは小鳥を指すことにする)という被写体は、よほどの鳥嫌いでもない限り、写真を見た人の大半が「可愛らしい」と感じるだろう。これも野鳥が持つ魅力の一つであり、私も惹かれている。写真的な良さを抜きにしても、被写体のもつ力が確固たる下地になっている。一方でスナップ写真は、全ての写真が万人に刺さるとは限らない。被写体を選定するという時点で、撮影者の個性的な着眼点が生かされ、一枚一枚に撮影者の興味が反映される。普段の生活の中でも、実感できると思うが、人の興味とは本当にバラバラなのである。自分がすごく熱を注ぐものがあっても、他の人に理解されないこともある。逆に他の人がすごく情熱を注いでいることに、からっきし興味が湧かないこともある。これらは「趣味」とか「仕事」とか動作レベルが大きいものを意識した言い分だが、まして目に止まる、止まらないレベルの興味であれば、なおさらバラバラだろう。なぜ視線を向けた?なぜそれを撮ろうと思った?よくわかんない。スナップ写真はそういうものだと思う。
 このようにスナップ写真は必ずしも万人受けをするとは限らないが、逆にハマるときはとことんハマる。私は友人に写真集をみてもらうことがあるのだが、「この写真集良い!欲しい!」と言ってくれる友人もいる(嬉しさのあまり写真集をプレゼントすることもある)。またSNSの投稿に毎回リアクションをくれる人もいて、心の中で握手したくなるときもある。自分の視点をユニークだ、素敵だと思ってもらえるのはとても嬉しい限りである。
 スナップ写真は解釈の幅も広いと感じる。例えば自分が、面白いなと思って撮った被写体から、寂しさを感じる人もいる。また、写真の中で自分にとっては「単に写っていた」ものが、人によっては魅力的に見えることもある。具体的な例を挙げれないのが申し訳ないが、このようにスナップ写真は、ある一つの画像(イメージ)の前で、良い意味で撮影者と鑑賞者のすれ違いが起こる。これは野鳥写真に比べて比較的多いような気がする。
 
・自分の心に残るスナップ写真
 先に述べたように、スナップ写真は一枚の写真を前にしても、見る人によって捉え方が異なる。そうすると、見る側と撮る側で心に残る写真も違ってくるのではないか。ここでは撮る側(自分)の心に残る写真について考察していこうと思う。

図2 佛光寺赤子

 図2は今年撮った中でも、5本の指に入るくらいお気に入りの写真である。これは、いつものように京都の街中をあてもなく歩いていたときに、偶然見つけた「佛光寺」で撮ったものだ。割と大きなお寺で、見つけたときに「テキトーに歩いてもこういうデカい寺にたどり着いてしまうのが、京都だよなー」と感心した。境内に入ると、「ああ、このお寺、温かい場所だな」と思った。人々がお堂の階段などに座ってくつろいだり、談笑していたのだ。お寺が人々の憩いの場になっており、何がなんでもこの場の雰囲気を写真に収めたいと思った。それからしばらく、お堂をうろうろしていると、ハイハイをしている赤ちゃんとそれを見守る女性の姿が目に入った。「温もりが凄い…これだ…」と思って、噛み締めながらシャッターを切った。今、この写真を見ても、その時感じた温もりや、これを撮るに至るまでのエピソードが鮮明に浮かんでくる。
 この写真を例として挙げたように、自分の心に残るスナップ写真とは、「撮影時に感じた温もりが、いつみても色褪せない写真」で、ジャンルで言うと「風景×人物スナップ」が一番それに該当しやすい。人の「動作」から温もりを感じるため、それを撮ることで、画の中に温もりを閉じ込めることができる。それに加えて、風景写真としても成立するような画作りができれば尚更よい。
 風景に着目すれば人物が副題となり、人物に着目すれば風景が副題となる。お互いがお互いを立てるような写真が、私の撮るスナップ写真の最高峰に位置する。



 




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