【東京】 放課後のアトリエ
色の境界は直ぐに曖昧になった。パレットで混ざり合った絵具は新しい色へと生まれ変わっていく。どうしても描かなければならない。男の絵は焦燥と緊張の表出その物だったはずだ。大学を卒業して幾つかの職場を転々とする間も絵を描き続け、描く事はやがて男の言語となっていく。時を経てかつての学舎は男のアトリエになっていた。当時の焦りと張り詰めた心は別の何物かと混ざり合い、曖昧になって、その度に姿を変えて来ただろう。男は今どんな色で描くのだろう。放課後の美術室。チャイムが鳴った。廊下から下校の子供達の声が響いて来る。暫くキャンバスを眺めた後、男は一気にナイフを走らせた。(shelter notebook 付録:習作の記憶より)
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