映画紹介【天井桟敷の人々】
【前書き】
舞台は1820年代、花の都はパリ。劇場が立ち並ぶ「犯罪大通り」の中の見世物小屋で肩先のヌードを売りに働くギャランスの登場から物語は始まります。ギャランスと彼女を取り巻く3人の男性、バティスト、フレデリック、伯爵の関係に焦点を当てながら舞台は進んでいきますが、もう一人
ギャランスに心を寄せながら沈黙している男がいます。
《スタッフ》
監督:マルセル・カルネ
脚本/台詞:ジャック・プレベール
音楽:ジョゼフ・コスマ モーリス・ティリエ
《キャスト》
ギャランス:アルレッティ
バティスト:ジャン・ルイ・バロー
ルメートル:ピエール・ブラッスール
ラスネール:マルセル・エラン
ナタリ―:マリア・カザレス
モントレー伯爵:ルイ・サルー
1945年 公開 モノクロ
第1幕『犯罪大通り』約100分
第2幕『白い男』約90分
【ストーリー】
第1幕『犯罪大通り』
女たらしで無名の俳優・フレデリックは[フュナンビュル座]の座長に用が有るとかで楽屋番と遣り取りをしている時に見世物小屋の美女ギャランスに目が止まり一目惚れ、用事を放り出しギャランスを追い愛を語るが、軽くあしらわれる。
そんな美女ギャランスと悪漢で友人のピエール・ラスネール(偽名で劇中ころころ変わる)はパリの犯罪大通りで「フュナンビュル座」の小屋掛けの前でパントマイムの余興を楽しんでいた。悪漢ピエールは、その隣で一緒に余興に見入っていた裕福そうな紳士から懐中時計を巧みに盗み去る。
そのことで濡れ衣を着せられ警官に掴まったギャランスであったが、盗難の現場を見ていた芸人バティストによってコミカルなパントマイムで再現され彼女への疑いは晴れる。👇
窮地を救われたギャランスはバティストに身に付けていた薔薇の花とキスを投げて去って行く。
このことがきっかけで、バティストは夢から覚めたように恋に落ちる。
一方で、フレデリックは「フュナンビュル座」公演中の出し物の代役を演じたことが切っ掛けで座員として働くようになる。
その後、偶然にもギャランスと再会するバティスト。お互い惹かれあうもののバティストの重い愛が2人を引き離す。
そんな彼も無言劇が評判になり、フレデリックと丁度、失業したギャランスが座に雇われ同じ舞台で共演する。
或る日、公演を見物しに来たモントレー伯爵はギャランスの魅力に夢中となり財力で彼女を口説くが自由気儘な彼女は申し出を断る。
「困った時には」と言って名刺を彼女に渡し去って行く伯爵。
その後、またもやピエールが起こした強盗事件のせいで警察の取り調べを受け、あわや殺人未遂の共犯者として逮捕されそうになりやむ無く、伯爵の名刺を差し出し助けを請うことに…。
第2幕『白い男』
ギャランスは窮地を助けて貰った見返りに伯爵の囲い者として屋敷の一室を与えられ豪華な衣装に身を包んだ暮らしを始めていた。
一方バティストは座長の娘、ナタリーと結婚して男の子を授かる。
フレデリックは「フュナンビュル座」を辞め、別の劇団に移ったものの相変わらず女遊びをしたり借金取りに追われたり、さらには「こんな芝居はたいくつだ」と言って劇中にアドリブを入れ作家達を侮辱するなど、問題を起こしていた。
偶然にもフレデリックはバティストの芝居を観に行った劇場でギャランスと再会し、二人を再会させようと取り計らうが結局は逢わせられなかった。
劇中に突然飛び出し失意に暮れるバティストだったが、友人・フレデリックの芝居『オセロ』を見に行き漸くギャランスと再会できた。2人にはもはや言葉はいらなかった。
しかし、一方ではギャランスを手に入れたものの、彼女に愛を求めても儘ならず伯爵は彼女の思い人がフレデリックと勘違いし、嫉妬の矛先をフレデリックに向け決闘を申し込む。そこに悪漢ピエールが割って入り、カーテンの向こうのバルコニーでのギャランスとバティストの逢瀬を見せる。
ピエールに激怒する伯爵は彼に侮辱的な言葉を吐きピエールは不適な笑いを浮かべてその場を去る。
其の夜、バティストは馴染みのホテル兼下宿屋にギャランスと泊まり結ばれる。
翌日、謝肉祭の喧騒の中、ピエールはトルコ式の風呂屋に入って行きモントレー伯爵の個室に行くと彼を刺し殺し前日の侮辱への復習を果たす。
カーニバルで人がごった返し踊り狂う人々の群れの中、ナタリーが子供を連れてバティストの泊まっているホテル兼下宿屋を訪れる。
そこでギャランスと出逢ったナタリーは「私は6年間、彼と一緒だったわ。貴女は時によって現れたり去って行ったり気楽で良いわね」と非難めいた言葉を掛ける。
然し、ギャランスは「私だって...他の人の傍で寝ている時も毎晩、心は彼と一緒だったわ」と応え部屋を出て行く。後を追うバティスト。
然し、足早に去って行くギャランスを追うバティストと彼女の間には渦巻き踊り狂う人々が行く手を阻み身動きも儘ならず「ギャランス、ギャランス」の叫び声も掻き消され、ギャランスは馬車に乗って遠ざかって行く。
更に追い駆けようとするバティストは群衆の渦に飲み込まれて行った。
【物語の背景】本の解説より抜粋
[犯罪大通り]
嘗てのパリの大通りで、ブールバール•デュ・タンプルの俗称。フランス革命時代から、曲芸やパントマイムを上演する小さな常設劇場が有った。
1862年パリ都市計画により此の「犯罪大通り」が一掃される迄にフランス演劇史に名を残した名優や大女優がいます。
[フュナンビュル座]
犯罪大通りに実在したパントマイムとヴォードヴィル専門の芝居小屋で1816年に創設された。初期の頃はアクロバットや綱渡り専門の見せ物小屋だったが、1830年以降、天才的なパントマイム役者ジャン•バティスト=ガスパール•ドゥビュローの出現によりピエロの夢幻劇がパリ中の人気を集めパントマイムの全盛期を迎えた。然し、1862年の都市計画で犯罪大通りと共に取り壊された。
【実在した登場人物】本の解説より抜粋
バティスト(実在)
「ジャン・バティスト=ガスパール•ドゥビュロー」と言い、大道芸人からフュナンビュル座のパントマイム役者になった人です。ピエロの創造者で白いブカブカの長い上衣をまとい、白塗りの顔に哀愁漂うメーキャップのピエロは彼が作り上げたキャラクターです。
フレデリック・ルメートル(実在)
フランスのロマン派演劇の寵児と言われた名優でしたが、奔放ででたらめな性格だったようです。やはりフュナンビュル座の俳優として舞台にでていたが長くは続かず他に移ったり、様々な個性的な役で有名になりパリの多くの劇場から引きが有ったそうです。
ピエール・フランソワ・ラスネール(実在)
「慇懃な態度と、洗練された物腰、高い額と絹の口髭を持つ特徴的ダンディーな男」と言われたが、軍隊脱走、手形の偽造、強盗、殺人など数々の事件を犯し、最後はギロチンに掛けられた。
彼が獄中で書いた手記がずっと後(2014年)に、「ラスネール回想録 十九世紀フランス詩人=犯罪者の手記」(小倉孝誠・梅澤礼訳)として邦訳、出版されました。
【キャストについて】ネットより
バティスト役のジャン・ルイ・バロー
舞台俳優、演出家、劇団主宰
1910年生まれ、高等中学を卒業後、様々な職業に就き、21歳の時から劇団に所属、其の後パントマイムも学びました。第二次大戦に召集されて29歳で帰国。1940年にコメディ・フランセーズに入座。3年後に正座員となる。数々の舞台演出をしています。
ナタリ―役のマリア・カザレス
マリア・ヴィクトリア・カサレス・イ・ペレスは、スペイン生まれのフランス人女優で、フランスの舞台と映画で最も著名なスターの 1 人でした。
クリスチャン・ジャック監督の[パルムの僧院]の公爵夫人役
ジャンコクトー監督の[オルフェ][オルフェの遺言]の死の女王役
ギャランス役のアルレッティ
前回に紹介させて頂きました[悪魔が夜来る]のドミニク役で出演していました。
[天井桟敷の人々]をネット上で感想を述べられていた男性は彼女を「オバハン」であると詰らぬ事を書いておられました。熟年女性にしか出せない艶やかさが、判ってないようで恋の相手の女性は必ず年下と決めておられるようです。確かにバティストより年上です。
然し、彼女の浮つきの無い演技と静かなセリフ回しは独特の魅力があり、
ナタリー役のマリア・カザレスとの風格の違いがハッキリとしています。
何方も大好きな女優です。
フランス映画史上最高傑作と称賛しております映画ですが[悪魔が夜来る]に続いてナチ占領下のパリを離れた映画人達によって、よくぞ作られたものと其の心意気に素晴らしさを感じます。
当時の作品として3時間10分は長いですね。其れだけに丁寧に作られていますね。人其々の観方も有り、退屈極まりないと思われる人も居られると思いますが、個人としましては途中で居眠りの出ない見応えの有る映画だと思っております。
長き御付き合い有り難う御座いました。