「あんたは一体、何が欲しいんだい?」
2ヶ月ほど前に、岐阜に行った。
朝井リョウ氏の講演会が目的だったため、飛騨高山といったメジャー観光地ではなく、会場だった瑞穂市(岐阜駅の2つ隣)の周辺で観光することとなった。瑞穂市からさらに電車で3駅行ったところに大垣という市があり、ここは朝井リョウ氏が通った高校があることから、朝井リョウ氏が通った街を散策したいというかなりきもい理由から大垣に宿をとっていた。
大垣は水の都と謳われていて、水路が街全体を取り囲むように通っていたり、湧き水の出る神社があり、メインの観光土産は「水饅頭」というように、とにかく水を推していた。
朝井リョウ氏の通っていた高校に行って門の外からここで体育祭のダンス練習したのかなと浸ってみたり(怖い)、大垣からさらに20分ほど電車に乗って養老の滝を見に行ったり、その道中に道を大いに間違えて雪降る車道を歩くことになり、たどり着いた駐車場で管理人のおばさんにたまにいるのよねーと慣れてない観光客っぷりを指摘されながら飴をもらったり、雪の中でみる滝に感動したり、養老天命反転地で子どものようにはしゃぎ回ったりして、岐阜観光を大いに満喫した。
2日目は瑞穂市で朝井リョウの講演会を聞いた。相変わらずのトーク力で初っ端から会場(1000人の観客で満員)の爆笑をかっさらったかと思いきや、本にまつわる質問に一つ一つ丁寧に答えながら、なぜ本を読むのか、物を書くのはどういうことかについて、講演された。いろんな物を得た、本当に素晴らしい講演会だった。
講演会後、ぎふメディアコスモス(岐阜市立の図書館や交流センターが併設されたとんでもなく素晴らしい複合文化施設)に行って講演会で紹介された本を読むなどして、夕暮れになった。岐阜名物けいちゃんをけいちゃんほそ江で食べ、帰りに銭湯に寄った。
そこは、前歯が3本ないおばあちゃんが1人で番頭をしていた。
銭湯に普段行き慣れていない私は、券売機で何を買えばいいのか分からなかった。
「らくらくセットとバスタオルセットって、何が違うんですか?」
「らくらくセットの4品にすると、何がついてくるんですか?」
「4品あったほうが安心ですか?」
「どっちの方がお得ですか?」
質問責めすると、おばあちゃんが困惑していった。
「あんたは一体、何が欲しいんだい?」
はっと思った。こうしたら得だとか、念のためとか、いつもそんなことばかり考えてしまう。損したくない。チャンスを逃したくない。あらゆる選択肢を全て吟味し、それぞれを比較して最も得するものを選びたい。こっちの方が得だったのに、と後悔したくない。どうせ買うなら、1番安い値段でいろんなことができるものを選びたい。
そうした雑念に塗れて、1番欲しい物が分からなくなってしまって、最後に手にするものは全然欲しくない物だったりする。
私は、何が、したいの?
結局私はここで何がしたかったのか?
髪と体を洗いに来たのではないのか?
「バスタオルセット3をください。」
おばあさんは前歯のない口をにっこりさせて、バスタオルと洗面用品3つと鍵をくれた。
帰りに自販機でヤクルトを買った。ボタンを押すと、ヤクルトが2本出てきて困惑した。
自販機が壊れたのかと慌てて番台のおばさあさんのところへ行った。
「それね、1本買うともう1本ついてくるの。」
得とは、思いがけないところからやってくるから得なんだと、思った。すごく嬉しかった。