![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/161735275/rectangle_large_type_2_9f81472617f92ffd8f0546380c5315b1.png?width=1200)
スクリーン事件
その日、1時間目の授業は、フレンドリー科だった。
1時間目はさすがの古いほうの勤務校生だって、まだ目覚めきってはいないから、ある意味楽勝だ。それに、今日は半分見終わっている「9.11 同時多発テロへの点と線」の後半を見るのが主だから、大した体力も要らないしね ♪ と、思って、余裕で職員室を出発した。
1時間目だから、どうせまだみんなバタバタしていて始められないだろうな、と思って、ゆっくりゆっくり渡り廊下を歩いていたら、教室にたどり着く前にチャイムが鳴ってしまったけど、そのままマイペースに歩いて、マイペースに教室に入った。
ちわっす!ちわっす!と挨拶されるので、おはよう😊おはよう😊と答えながら教卓の前へ。荷物を教卓において、
「はい、号令お願いします😊」
「気をつけ!休め(休めが入るって珍しくないですか?)…。
気をつけ!礼!!」
「おねがいしまっす!!」
「おはようございます😊。……さて、今日は先週の続きを見ようね?
オサマ・ビンラディンのやつ。」
と言うと、みんながにたにたしている。
「?」
「先生、今日はスクリーンがありませんよ😊😊」
「えっ?なんでっ?」
と振り返ると、いつも黒板の端っこに、巻物みたいに巻かれて引っかけられているスクリーンがない!
「破れたから、専門科の準備室に持って来いって言われて、今朝……。」
「えーー。じゃあ、どうしようか?」
「自習!」「自習!」「自習!」・・・
「いやいや、自習なんて、まさか。」
「黒板にそのまま写して、みんなでがんばって見る。」「あ~……。」
というので、やってみたけど、……ほぼ見えない。
職員室に戻って、次のところのプリントを持って来ようか、とも思ったけど、まだ、刷ってもいないから時間が掛かるし。
それより、
「う~ん、ちょっと探してくる。隣の教室に借りてくるね?」
と、少年たちを置いて、教室を出た。
よその学年より、今教えている学年の他のクラスのほうが訊きやすいな、と思って、トイレの向こうにある現素直科に行こうとせかせか歩いていると、たまたまこちらの学校の「情報の先生」が歩いていらっしゃった。どうしたのか訊かれ、事情を話すと、遠くの準備室から別のスクリーンを探してあったら取ってきてくださるという。
「すみません~。じゃあ、わたしはどこか使ってない教室に借りられるか探しますね?」と、わたしはそのまま、現素直科へ。
素直科を覗いてみると、そうだった、現素直科は教室がよそと違って、黒板ではなく、ホワイトボード。だから、スクリーンは使わずに、ホワイトボードをスクリーンとして使って動画を見るんだったっけ。持っては行けない。
次、その奥の現クール科。ちらっと覗くと、だめ、使っているのが見える。え~💦
しょうがない、反対側だ!と、引き返して、フレンドリー科の反対隣の、見ず知らずの学年の教室に行った。
先生はいないのに、生徒たちだけがものすごくビシッと座っていて(なにかあったのかな)、気がひける感じだけど、がんばって、
「すいません~、スクリーンって今から使う?」
と見知らぬ生徒たちに訊くと、
「使います!」
と、ビシッとした返事が返ってきた。だめだ~。
次、その奥、……あ~、鍵が閉まってる。実習か体育か。
次、そのさらに奥、わ~、数学の先生が使ってる💧。
階段をそのまま上がって、上の階の教室?と思ったけど、そこは去年の学年なのでなんだかはずかしくて行きづらい。対角線上の遠い場所に戻ることになるけど、現ワイルド科に先に行こう!と、引き返して反対側まで行って、階段を上って、現ワイルド科へ。
息を切らしつつ覗いてみると、あ、スクリーン使ってない!
……けど、ものすごく恐ろしそうな専門科の先生が、ものすごくビシッとした雰囲気で授業をされていて、廊下のわたしにまったく気づいてくださらない。う~ん、これに話しかける勇気はどうしても出ない。
もう、しょうがないから、去年の学年へ。
一番手前の、旧ワイルド科。教室では同じく、専門科の先生が、これまた嘘みたいにビシッと授業をされていて、旧ワイルド科のくせにまったく乱れてない。先生、気づく気配なし。
ここも無理かな……、と思ったら、でも、少年たち(若者たち?)のほうがわたしに気づいて、一斉にこっちを向いた。先生も気づいた。
事情を訴えると、その先生が、
「あ、いいですよ。どうぞ、使ってください。◯◯、手伝ってあげろ。」
と、背の高い方のバスケ部くんを指名してくださった。お~、なんか不思議な展開。自分で持てるけど、せっかくだから、持ってもらう。
階段を降りながら、
「お久しぶりですね~。お元気ですか?😊😊」
「ほんとねぇ~、久しぶりだよね~😊😊」
と、二人で旧交を温める。
下のフレンドリー科に戻ると、フレンドリー科の担任の先生が、2つに裂けたスクリーンをむりやりテープで繋いだものを黒板にそーっと貼り付けている最中だった。たぶん、「情報の先生」に言われたに違いない。
私たちが現れると、「じゃあ、そっちのきれいなほうを貼りましょう」と言って、旧ワイルド科のきれいなスクリーンを貼り直してくれた。ご親切に…。
こんなに手伝ってもらえるなんて、普段ない経験。どこかの高級店のお客さんにでもなったみたい。
そっかそっか。近寄りがたく見える専門科の先生たちって、実は多くはこの学校のOBなんだから、見た目ほど近づきがたい人たちじゃないのかも、と4年目にして初めて見直した。
しかも、担任の先生の一瞬の登場のおかげで、その日のフレンドリー科の授業は、なんとなく静か……。😊
では、今日も行ってきます!