noteと、わたし⑧
夜が明ける前のこのまっ暗な時間、日曜の朝は、とても静かです。他の日なら、朝も早くからとても大きなトラックの、バックする音が聞こえたり、シャッターの開く音が聞こえたりする、道の向こう側の宅急便もひたすら静か。夏の間、あんなに鳴いていた蝉も、秋が来て、あんなに鳴いていた虫の声も、今日はなぜか何の声も聞こえません。もう冬が近づいているんでしょうか。
……あ、宅急便のほうから、小さく、ごとん、ごとんという音が、やっと聞こえてきました。今日も営業してはいるんですね?宅配業者さん、完全なおやすみはないんですね。
昔、アクシデントがあって、辞める覚悟もなく仕事を辞めました。『二十四の瞳』っていう本、子どものころに読みましたか?人生の落とし穴にはよく落ちるけど、もちろん生徒の掘った落とし穴に落ちたわけでは全然ないですし、あんなに愛される素晴らしい先生でも何でもなかったですが、唐突な感じがちょっと似ています。
もう20年も前の古い話で、当時は落ち込みましたが、それからのわたしにも、ちゃんと楽しいこともうれしいことも、20年間分いろいろありました。
子どもたちとも、思う存分いっしょにいられたし、ちゃんと、これでよかったと思っています。それにたぶん、どっちにしろ、わたしと子どもたちの性格から考えて、それがなくても、わたしは仕事を辞めたに違いないです。
それでも、心のどこかで、あのアクシデントがあって、わたしはわたしの馴染んでいた世界から締め出されてしまったんだ、と思っているところがありました。言い換えれば、扉が閉まって自分の居場所だった世界に帰れなくなったのはわたしだ、という感覚です。
でも、実は扉の向こうには、今回の事件後のわたしと同じように、扉の反対側で、がーん、になっていた人もいたかもしれない、と初めて思い当たりました。その後の子育てとか、自分のことにばかり目が行っていて、まさかそんなこと、今まで考えてみたこともなかったわたしでした。
最後に働いていた職場で、わたしは2番目に若い女性教員でした。(男性多めの職場でした。)子どもはまだいなかったころです。少子化で、採用人数が減っていたので、けっこう長い間、わたしは「若い先生」でした😊。
辞める前年の文化祭で、生徒会の生徒たちに、わたしを含む若いほうから3人の女性教員で歌を歌ってほしいと頼まれました。いや、そういえば、今新しいほうの学校にいるライオン型のバスケ部顧問の先生が、当時まだ新任でした。だからわたしは3番目……。じゃあ、なんでその3人に……??ライオン型の先生に頼んでもキッパリ断られるからでしょうが、頼まないのもどうなのかな。たしかに新任でも、なぞの風格でしたが😊。
とにかく、全校生徒の前で、ですよ?ありえません。
でも、しつこい😊生徒会の生徒たちの圧と、もっとも若い先生が前向きにやろうというのとで(彼女は歌がうまかった)、え~~~……💧、と4番目に若い人と言いながら、結局歌うことになったのも『涙そうそう』でした。ほとんど最も若い人に歌ってもらったけど、……おそろしい。
そんなふうに、わたしたち1,3,4番目に若い3人は仲良く働いていました(わたしはライオン型のバスケ部顧問の先生とも仲良く働いていましたけど)。1番さんはとても若かったですけどすでに小さいお子さんがいましたが、わたしと4番目さんはわりと自由の身だったので、二人でたまに遊びに行ったり、今のリス子先生とわたしのように、授業の合間につまらない話をしたり、仲良く楽しく働いていたわけです。
なのに、突然の入院。
入院してしばらくは、ショックで外部と連絡を取る気になれず、あまり二人には連絡もしなかったです💧。二人は、「大丈夫?気にしないで、ゆっくり休んでね?」みたいなことを言って、そっとしてくれました。
若かったし、それほど向こうは思わなかったかもしれないけど、でも、もしかしたら二人だって、心の穴を開けていたかもしれません。
あの時わたしが置いていった、クラスの子たちや部活の子たちはどうだったんだろう。それ以前にも、わたしが転勤するたびに置いていく部活の生徒たちは?
お別れ会ではいつも涙してくれたけど、わたしはそれをのんきに、半分サービスで流す涙なんだろうと思っていたし、転勤だからしかたないんだと思っていました。でも、もしかしたら中には、本気で心の穴を開けた子もいたかもしれませんよね。離任式で久しぶりに会ったとき、「先生~……💧💧💧」とか言って泣いていた、17歳の彼女たちの顔が思い浮かんでしまいます。
前日まで体育館のステージに毎日毎日座って、足をぶらぶらさせながら見守っていた先生が、新聞発表の日を境に、急に姿を消したら、みんなどう感じたのかな、って。想像するのもこわいけど、いくら高校生でもきっとさみしい思いをさせたのは間違いない気がします。今ならもっとやさしい去り方を工夫できるけど、もう遅い。
わたし、自分は存在感がないから、周りの人はわたしがいなくなっても大丈夫だと思っていたんです。なんと、子どもっぽい愚かなわたしです。だから本当は、今回悲しむ権利なし……。
そんなことを思い出しているうちに、やっぱりとあるnoterさんも、なにかどうしようもないことがあって、そうせざるを得ないから辞めたんだということがよく分かるような気がしました。
それなら、しかたないから、これを書き終えたら、わたしもここでもうしばらく、黙ってとあるnoterさんを待ってみようかな、と思い始めていました。わたしだって、ちゃんと学校に戻れたんだし、この重たい扉の近くでもうしばらくは、って。
(「黙って」って、今さら黙っても、黙ったうちには入りませんよね?
ごめんなさい。ほんとに、すみません。)
砂時計はひっくり返せなかったけど、これがわたしにとっての新しい砂時計なのかな、とか思いながら。
(心から、ありがとうございました。 …やっと、おしまい。 😊)