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ハンガー

雪が降ると、降る雪から、目が離せなくなるときがある。

さっきから、小さな白いモモンガが手を広げたみたいな雪が、
ふわふわ、ふわふわ、空から大量に、
上から斜め下、上から斜め下、上から斜め下……
わたしの目線も、上から斜め下、上から斜め下、上から斜め下……
とある女子中学生が鼻先で振る、セーラー服用の黒いハンガーの動きに、目が釘付けになっているときの軒下さんみたいになる。
溶ける速さと降る速さでは、降る速さのほうが勝っていて、もう稲を植えられない田んぼも、アスファルトも、黄色い梅も、
だんだん白いところが増えていく。
雪に遮られるのか、エアコンの音しか聞こえないような、お昼の12時。

軒下猫´とふたり、居間のテーブルのそれぞれの椅子に居て、
軒下さんは寝るのが仕事。
さて…、わたしの仕事は何だったろう?とぼんやり考えながら、眠る軒下さんの向こう、大きなガラス窓の外を見ている。




今はもう、雪が積もっても、いっしょに雪だるまを作る子どもも居ないし、この先の将来のことを思って、なにかしておかないといけない気はするのに、焦る気持ちさえ起こらない。

という、危険すぎる雪の日。



すると、向こうの山のほうから、もっと小さな雪の集団が、勢いよく真っ白く迫ってくるのが見える。
生き物としてはらはらしてしまう。
わっと迫る新しい雪に、モモンガたちもどこかへ飛んで行ってしまった…。





軒下さんが目覚めて、小さな音を立てて、ヨガのいわゆるキャットポーズをしたあと向きを変えて、わたしに背中を向けて、また、眠る。

もういちど、外に目をやると、あれっ、もう黄色い梅の細い枝に、ドアの隙間に貼る、白くて、もじゃもじゃした毛のついた隙間テープを貼ったみたいに、上手に雪が積もっている。黄色い梅の花も雪のボリュームで×2倍のサイズに。



見れば見るほど世界が真っ白すぎるから、ますます頭の中が真っ白になって、過去のことも、将来のことも、今のことでさえも、わたしにはもうどうでもいいから、ただ、雪が積もっていくのを見ていたいような、
……これは、こわい催眠術。


という、日でした。昨日は。


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