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裏窓

 新しいほうの学校にも、夏が来ている。職員室には涼しいエアコン……~、教室にも涼しいエアコン……~。
 でも、社会科準備室にエアコンは、ないです。

 高校時代、社会科準備室に、行ったことがありますか?
 社会科準備室というものは、古い地図や専門書や問題集や古い教科書が積み上げられた机と棚がたくさん埃をかぶっていて、風通しの悪いところです。
 風の通り道になる出入り口には、ついたてのように、大きな無機質な本棚が置かれていて、受験問題集が頭のはるか上まで並べられていて、すごい圧迫感。

 で、エアコンはありません。しかも最上階。すごく暑いです。

 そんな準備室で、わたしが暑さをしのぐ道具と言えば、先日古いほうの学校でもらった、野球応援用の真っ赤な団扇だけです。
 団扇には渋い字で、古いほうの学校のスローガンである3文字の言葉が書いてあります。スローガンは昭和を越えて、もう新撰組?みたいな感じのもので、ここまでいくと妙にかっこいい。
 とある者たちが珍しがって喜ぶので、家に持って帰ろうと鞄に入れていたのですが、あまりに暑いので、「あ、あれならある!」と、学校が違って敵の回し者みたいになってしまいますが、使っています。

 でも、いくらあおいでも、どうしたって暑すぎるので、たびたび廊下に出て、中庭に面した窓の前で、団扇をパタパタさせながら、涼しくもないけど涼むことにしています。

 下に見える中庭は、先生たちの駐車場。殺伐として木の一本も生えていません。が、その向こうに教室棟があって、雪子さんの好きなヒッチコックの映画『裏窓』(渋い?)のように、1から3年の教室が窓大きく並んでいて、まるでスタジオのセットでも見るような、面白い光景になっています。


 空き時間や、授業の合間の休憩時間、こうやって見ていると、ここの高校生たちはほんとによく勉強します。


 そもそもチャイムが鳴る前から何割かの生徒は、座って予習か何かしています(奇跡!)。渡り廊下で冷水機に頭をつっこんでいるような男子は一人もいません。そこに代わる代わるいろんな先生が来て、号令をかけて授業が始まります。

 教卓周辺からあまり動かないわたしのような人、ウロウロ動き回って授業をする人。
 教卓の真ん中からちょっと左にずれた位置に立って、いつもちょっと首をかしげて飄々と世界史を教えている背の高い地歴科主任同期のT先生(やっぱり動物にたとえるなら、「きりん」で正解)。
 空いている生徒の席(欠席なのかな?)に横向いて腰掛けて、数学の問題を解かせている野球バスケ部のA先生(すごい生徒とのなじみ方。)。
 あと、チャイムが鳴る前からいつもなぜか授業を始めていて、チャイムが鳴ってもまだやっている、見知らぬ数学のあつい先生(エネルギッシュ?)、などなど、つぎつぎあらわれて授業をしています。

 だけど、こちらから見ている限り、高校生たちは誰が現れようがほとんど動じることなく授業を受けているように見えます。たとえ時間を超過して休憩時間が減っても、暴動の起こる気配なし。
 う~ん、よく考えてみたら、高校生の生活って不思議な生活ですね?



 ところが、そこに、ある先生が登場して、高校生たちの雰囲気が微妙に変化!これは保健の授業かな。




 彼女も実は、わたしの古い知り合いです。
 わたしが仕事を辞める前最後の学校で、一緒に女子バスケ部を持っていた、体育の先生。わたしより5つぐらい年下の、当時、たしか新卒じゃないけど、一応新任の若い先生でした。
 彼女は高校時代、県内のかなり遠くのバスケ強豪校に行って、その後、体育大学を出た、とある予備校生が言うところの「ガチ猛者」だった人です。
 性格的には、わたしにはなじみ深い「不機嫌なお姉さんタイプ」😊。動物にたとえるなら、と言われたら、迷わず「ライオン!」です。怒りが顔に出やすいけど腹黒くない、そのまんまな人で、わたしとコンビだと正反対な感じがちょうど良かった。
 部員たちはよく「厳しすぎ」とか、「キレてくるんよ」とか、わたしに言ってましたが(わたしはただ聞いて笑ってるだけ)、恐れられつつ嫌われてない感じの、不思議キャラでした。

 とある予備校生も彼女に三年間体育を教わっていて、とある当時若者1年生の時、
「女バスの先生が、お母さんにすっごいおせわになったんよ~、って、お母さんによろしく言っといてくれって、ゆっとったよ。」
って、言われてびっくり。
 彼女本人はこの4月に、
「息子さん、すごいかわいいですよねー、や~、いろいろ楽しませてもらいましたー」
と、こわいことを言っていました。
(えっ、とある予備校生、一体何をしたんだろう???)

 で、そのライオン型の先生が授業をしている様子を観察。
 すごい威圧感のオーラを出して、あまり本人は動きもせず、ムスッと話し、生徒もビシッと授業を受けています。おー、さすが!
 そういえば、とある当時若者が、「ライオン型先生の授業で、◯◯が内職しよってめちゃくちゃ怒られとった」とか言ってたな。
 「保健」という、いくら大事でも、高校生からしたらたぶん、それほどやる気にはなれない科目にもかかわらず、すご~い。どうやったら、あんな雰囲気を出せるんだろう。意図しているわけじゃないんだろうな。出てしまうだけなんだろうな。でも、新任の頃「や~、ほんとに保健嫌~、何教えていいか分からないんですよ、も~」とか言ってた頃もあったんだけどね~と、ついじろじろ観察。
 この人も相変わらずだな~、と、うれしくなりました。

 
 チャイムが鳴って、その授業が終わっても、まだ涼んでいると、教えているクラスの窓際の女子が、わたしの熱視線に唯一気づいて、何か用かな?と、1階からこっちを見上げているので、(なんでもないよ、暑いのよ😊)と、心で応えて新撰組の団扇を振ったら、手を振り返してくれました。
でも、(あれ?つい先生に手に振り返してしまった、悪かったかな、もしかして団扇をパタパタしてただけで手を振ったんじゃなかったのかも……)みたいな顔をしてたので、もう一回、手と「新撰組」を軽く振って、猫のようにするっと退散しましたとさ。

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