見出し画像

やる気!

 昨日は、少年たちがやけに元気なように感じた。
 元気すぎて、1つめの授業ですでに声があやしくなって、2つめの途中で、声を届かせようとちょっと大きめの声で話していたら咳が止まらなくなり、1時間空いて、3つめはマイペースなクール科。

 教室に着くなり、少年たちが1か所に固まって学校用タブレットを見ながら、修学旅行のホテルが”えぐい”(良い意味?悪い意味?)と言って大騒ぎをしている。なにが彼らをこんなに活気づけているんだろう、今日は。1時間がんばれるかな?と不安になった。

 わたしの到着に気付いたソフテニ部前衛くんが、こっちを向くなり、
「今日は早めに終わりましょう!」
「えっなんで?」
「食券がなくなります!」
「あ~……。」
他の少年たちが、
「もう今日は授業は諦めて、『魔改造』を見ましょう!😊」
「そうしましょう!😊」
「『魔改造』!😊」
「え~、まさか。だいいちもう見たやん。さあさあ、やるよ~。」
と、いきなりやる気を吸い取られそうになった。

 その後も、事あるごとに「よし、もういいんじゃないですか?『魔改造』で。😊」とか、「学食!😊」とか、言われながらも、「😊😊😊~」と、授業をすすめていくうちに、ある程度区切りのいいところで、ふと時計を見ると、昼休みまであと15分。(あ~、よくがんばったな~、わたしは。)と思うわたしの視線をすぐに察知して、「おっ、学食か?!😊」とか言ってまたわやわやし始めた。

 あ~、もう一度集中させる気力が湧かない~……。そもそも声も届かない~……。から、とりあえず黒板に書くだけ書こうか、そしたら静まるかな?と、黙って、リカードの比較生産費説を教えるときの、例のあの、

          ポルトガル   イギリス

 ワイン1単位    80人    120人

 服  1単位    90人    100人

を、書いた。

 さあ、がんばって説明するか~、声が続くかぎり、と思ったけど、 
……振り返って、わやわやに向かって小さめの声で、
「…これをふつうにそれぞれの国で生産すると、両国合わせて、ワインは2単位、服も2単位できるよね…?……ポルトガルなんか、どっちでもイギリスよりまさっていて、貿易してもしょうがないように見えるよね…?
 でも、リカードが言うには、ポルトガル人がワイン、イギリス人が服に”特化”して自由貿易をしたら、それぞれ、ワインは2.125単位、服は2.2単位できて、得なんだって…。なんでその数字になるのか、だれかわたしのかわりに説明できたら、即、昼休みでいいよ…?」

 しーん。にわかに本気になるマイペース・クール科の人たち。

 たぶん、多くの人が習ってますよね?
 覚えてます? リカードの比較生産費説。

 8分後、食券が買いたい張本人のソフテニ部前衛くんではなく、窓際のクレバーなサッカー部くんが、答えに行き着き、みんなが「おー😮!」に。わたしは大声を出さずともリカードを浸透させ、ちょうどチャイム数分前に授業を終えました。声は守れた。 めでたしめでたし😊! 

 今日は5時間授業の日。でも今日はちゃんとやります!

 

いいなと思ったら応援しよう!