もうひとつの童話の世界、14 こころのかけら2/3
こころのかけら
カイトは、朝おきるとパパに相談しました。
「また、行きたいんやけど?」
「どこに?」
カイトは、夢の話はいっても笑われるだけやと思い、おもしろかったから、また発掘現場にいきたいとだけ言いました。
パパは 思いもよらないカイトの言葉に驚きながら、
「そうか、それやったら朝食たべたらいこか。」
うれしそうです。
現場につくと、さっそく幼馴染の橋本君を見つけだし、
「橋本君、うちの子が、ボランティアで手伝(てつだ)いたいと言ってるんやけど、小学生でもいいんかな?」
「うん、親の許可(きょか)があったらええよ。カイト君が自分からやりたいんやったら大歓迎や。後のめんどうはぼくがみるわ。」
そして、カイトの気持ちを確かめるように、
「やりたいんか?」とたずねました。
カイトは大きくうなずきました。
「いつからやる?」
カイトは、黙ってポケットから、工作用の軍手をとりだしました。
「おう、やる気満々やな。今からやるんか。」
カイトはまたうなずきました。
「じゃあ、ルールを教えるわな。何か固い物を見つけたら、必ず、大きな声で『なにか見つけました。』と、先にみんなに知らせること、掘りだすのはその後や、もしそれが大切な物やったら、埋(う)もれた状態でまず写真をとるからな。」
カイトは神妙(しんみょう)な気持ちできいていました。
「じゃあ、きのうの続きで、土偶の顔を見つけたあたりから始めよか。」
カイトのパパが、心配そうに見ていると、
「しばらく俺がついて一緒にやるから。また昼前にむかえに来たらええよ。」と、橋本さんは笑っています。
ふたりは、下におりるとさっそく、きのう土偶の顔を見つけた場所から始めました。
「たぶん、土偶のからだの破片がこの辺りに散らばってるはずやから、カイト君はそのからだを見つけるつもりで、がんばろか。」
カイトは、きのうの見た夢とおなじことを言われたので、橋本さんもおなじ夢みたんかな?と思ったけれど、もし違っていたらはずかしいので、何もいえませんでした。ただ、土偶のからだの破片がこの辺りにあることがわかったので、はやくみつけたいと思っていました。
橋本さんは、せっかくカイトが土偶の顔を見つけたので、何とかからだの破片も見つけてもらい、その破片をつなぎあわせて、一つのものを完成させる喜びを味わってほしい、と思っていました。
カイトは、掘っているとさっそく何か固いものをみつけました。橋本さんに言うと、
「大きな声で『何か見つけました』と言わんとあかんやろ。言ってみて。」
カイトは、はずかしくて小さな声で、
「何か見つけました!」
「あかん、あかん、声が小さい。みんなに聞こえるように、もっと大きな声をださな、もういっぺん声だして。」
するとカイトは、耳を真っ赤にしながら、
「何か見つけました!」
半分(はんぶん)やけくそみたいな大きな声です。
「はい、わかりました。すぐいきます。」
現場主任のおっちゃんが、楽しそうに答えてくれました。
昼までにみつけたカイトの破片は五つ、カイト専用のプラスチックボックスに入れてくれました。
昼にいちど、家に帰って昼食をたべると、また現場にもどってきました。
カイトは、こつこつとヘラを使(つか)って土を削ることが、自分に合っていると感じていました。
だれにも気を使わず、だれとも話す必要もなく、時間を忘れて自分一人の世界にはいりこんでいける。そして、何かを見つけたときのあのわくわくした気持ちを思うと、
―これは、ぼくにぴったりや。ゲームよりおもしろい。
と、かんじていました。
夕方、橋本さんは、
「ようがんばったな、今日はここまでにしよか。
カイト君、破片と一緒に黒い粒がおちてなかったか?」
「うん、かたまっておちてた。」
「それもプラスチック箱にいれたやろ。あれは何やと思う?」
カイトが首をひねると、
「あれはなあ、穀物の種とか実なんや、そこに土偶の破片が一緒に落ちてるということは、なんでやと思う?」
「昔の人の食べ物?」
「そうや、だから土偶は作物の収穫に感謝して、また来年も作物がとれますようにと、願いを込めてわざと土偶を砕いた、と考えられてる。
どうや、こうやって掘って調べたら、昔の人の気持ちが、伝わってくるやろ。これが考古学や。ロマンがあっておもしろい学問やろ。」
カイトは、そこまでわかるんか、とかんしんしていました。橋本さんの楽しそうな顔を見ていると、カイトまで楽しくなってきました。
「カイト君、明日は学校やろ、どうする?」
カイトは、発掘が楽しいので、学校が終(お)わってから、きていいかたずねました。
「きたらええで。そのかわりお父さんか、お母さんの許可をちゃんともらわなあかんで。
そしたら最後に今日みつけた破片といっしょに、写真とろか。これが記録になるからな。」、
カイトは、ちょっとはずかしそうに、かしこまった顔で写真におさまりました。
それから一週間、カイトは学校が終わると家に飛んで帰り、毎日遺跡にやってきました。
土曜日に遺跡にいくと、
「カイト君、だいぶ破片が集まったから、今日はパズルしよか。」
「パズル?」
「そうや、今まで集めた破片をつなぎあわせて、一つの形にするんや。
根気いるけど、せっかくカイト君が最初に土偶の顔を見つけたから、からだを探そう。」
事務所に入ると、作業台の上にカイトが見つけた破片が入ったプラボックスがおかれています。
カイトは、机の前にたつと、ひとつひとつの破片をくらべていきました。
橋本さんは、カイトの横でみていましたが、ひょいと二つ破片を取りあげると、一つに合わせ、
「ほら、合ってるやろ。こうして、最初は二つを一つに、合わせていくんや。できるか?」
カイトは、ほんまやパズルや、とさっそくはじめました。やっていくと、何かの拍子に合うのが出てくる。だんだんおもしくなって夢中になって合う破片をさがしていました。
すると、橋本さんが、今度は二つずつ合わせていた破片を、また合わせていきます。できあがった小さなブロックを、またあわせて大きなブロックに、そしてカイトが見つけた土偶の顔につなげると、土偶の形がしだいにできあがってきました。
「へえー、土偶ってこんな形してたんや。考古学や!」
カイトは、すなおな驚きと、大きな満足感がこみ上げてきました。
―これで、土偶もよろこんでくれる。
土偶との約束がはたせて大満足でした。
「カイト君、そっちに立って。土偶と一緒に写真とろか。」
それからも、毎日、カイトは学校が終わると楽しそうに現場にでかけました。
大きな土器の掘りだしにも参加しました。
新聞社の取材もうけました。
その翌日の地方版に『小学4年生、土偶を発見。』という小さなみだしで、カイトと土偶の写真がのりました。
記事は地方版の隅に少しのっただけだったのに、クラスの友だちがみつけ、記事を学校に持ってきました。
みんなびっくり。今まで影のうすい、誰とも話さなかったカイトが、とつぜん新聞にのったことで、みんなから質問ぜめにあいました。おかげで昼の休憩時間に、いつものように一人でぼんやりとすごすことができません。正直なところ、カイトにとっては、ひとつひとつの質問にこたえるのが、はずかしくもあり、誇(ほこ)らしくもありました。