もうひとつの物語の世界17,のどか村の甚平さん3/3
のどか村の甚平さん3/3
次の日、甚平さんは、夢の続きをみるように、昨日の夜のことをおもいだしていました。
―のどか村は、山の生き物たちの村なんだ。
甚平さんは、自分が場違いな村に迷いこんだ気がしてしかたありません。
これからどうなるのか、自分でもわからず、ぼんやり考えこんでいると、村長とおどろん子が、めずらしくそろってやってきました。
甚平さんは、慌てて起き上がると、二人を迎え入れました。
「甚平さん、昨日はごくろうさん。
緊張したやろ。わしも、あの龍神さまの目でにらまれると、肝っ玉がちぢみあがってしまうわ。
それとな、次(つぎ)の大満月(だいまんげつ)は、『山神さまの昔祭り』やから、またおどろん子といっしょにきてや。山神さまにもあいさつしとかんとな。」
「はい、いってもいいのなら。」
「山神さまは、龍神さまとちごうて、ほんと美しくて、やさしいお方やから、安心してきたらええで。」
ハハハと、村長は笑っています。
甚平さんもつられて笑いながら、ふと、さきほどの不安な気持をおもいだしました。
「村長さん、ひとつおたずねしたいんですが?
わたしみたいな人間が、このまま、こののどか村に住んでいいんでしょうか?」
すると、村長は怪訝(けげん)な顔をして、
「甚平さんが、人間?」
そして、真顔になると、
「あんたのじっちゃんは、白狼という立派なオオカミの長老やったんやで。その孫やから、あんたもオオカミに決まってますやろ。」
「わたしが・・・オオカミですか?
でも、わたしに尻尾はありませんが?」
すると村長さんは、ワッハッハと笑い、
「尻尾なんて、この村におったら、そんなもん、すぐに生えてきますがな。」
おどろん子も、ニコニコして、
「尻尾が生えるまで、じっちゃんの尻尾をつけてたらええやん。
あたし、童話を書くオオカミの甚平さんが大好きや。」
ひとりよろこんでいました。
「そうか・・・、それでわたしは大上(おおかみ)という名前なのか?
すると、わたしは人間なんだろうか、オオカミなんだろうか?」
「甚平さんは、まだまだ白狼にはなれんから、人(じん)狼(ろう)といったところかな。」
村長は、うまく言えたとニコニコしています。
[私が人狼ですか?」
自分のなかに、あの狼のどう猛さがあるとはとてもかんじられません。
子どもの頃は、おとなしい、目立たない子、大人になっても、人と争うのが嫌いで、どちらかというと、避けて生きてきた人生でした。
この村で、せいかつしていたら、そのうちオオカミとしての本性があらわれてくるのかな?
甚平さんは、不思議な気持で、人狼としてこののどか村で生きていく自分を想像していました。