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小説【ノキさんと俺】3

【ノキさんと俺】3

俺は小児麻痺のくせに耳もちぃとばかし悪い。だからたまに何を言ってるのかわからないんだ。

でもノキさんは、そんなこたぁお構いなしにぶぁ~とデカイ声で捲し立てる。まるでF1マシンが奏でるエグゾーストノイズのようにだ。

このノイズがまた俺にとっちゃ子守唄みたいに心地良いんだ。

いい歳こいて子守唄っていうのもなんだけど、本当にそうなんだ。

ノキさんは、本当は猪木って名前だってわかったのはだいぶたってからだ。俺はイ行が聞き取りにくいんだ。ずっと気が付かずノキさん、ノキさんて呼んでた。ノキさんは全然否定しなかったし。あだ名が昔っからノキさんだったからなのかもしれない。

ノキさんの話しはたまんなく面白い。

大好物の焼肉やお寿司を待つようにいつもワクワクするんだ。

ノキさんはやたらめったらメカに詳しい。電化製品から自転車やバイクに自動車、果ては飛行機やロケットのことまで動くものなら知らないことが無いってくらい何でも知ってる。

俺は電動車椅子がどういう仕組みで動くのか一から十まで全部教えて貰った。

そんなノキさんだから電動車椅子のちょっとした故障を修理することなんざぁ朝飯前なんだ。

本人曰く、「目ぇつむっててもわけないさ」だってよ。惚れちゃうぜまったく。

ノキさんが修理してくれた車椅子は感動するくらいスムースに動き回るんだ。

これが同んなじマシンかっていうくらい意のままに操れる。

それまではコントローラーを思いっきり前に倒しても随分とタイムラグがあってから進みやがるし左に倒せば牛がのっそりと鼻先を向けてから図体が動くように中々思いどおりに曲がらない。

でもノキさんと会うまではぼんやりとそんなもんだなぁと思ってた。諦めとかっていうよりも電動車椅子はそういう動きをする機械なんだということさ。

つづく

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