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ハコフグをかっとっぽにして食べた話

入手経路

 石川県輪島市で定置網漁師をしているHから魚が届くのもこれで二度目。Hは重度の魚オタクで珍しい魚を時々送ってくる。

アジ14匹、アオリイカ3杯、ハコフグ1匹

 ハコフグは本来フグ調理師免許が必要。以下を読んで真似するなら自己責任で。

ハコフグの毒

 注意すべきは肝臓のパリトキシン。もともと皮膚以外は無毒とされていたが、近年パリトキシンを含む個体が発見されて中毒被害が相次いだため肝臓も禁止された。

 パリトキシンはテトロドトキシンの数十倍、青酸カリの数万倍という劇毒で、アオブダイやハタ科の魚にも含まれる。パリトキシンを産生する渦鞭毛藻類がイワスナギンチャクに付着して、毒が濃縮され、それを魚が食べて肝臓に貯留される。

悩む。。。

  • 1953年から2020年の厚生労働省の症例報告によると、パリトキシン中毒の北限は愛知

  • 患者145人のうち死亡は8人、ハコフグによる死者ゼロ

  • イワスナギンチャクの北限は和歌山

  • 中毒で入院した場合は数日~数週間で退院していて重篤な後遺症がない

 以上の情報から、石川県のハコフグの肝を食べて死ぬリスクをそれなりに低く見積もった上で、

① ハコフグの肝の味の経験、ハズレだったときの学問的価値
② これで死んでしまうほど運の悪い人間の残りの人生

を天秤にかけて、死んだら死んだでしゃあないと決定。

かっとっぽとは

 五島列島の郷土料理で、ハコフグのおなかに穴を空けて内臓を取り除き、肝と味噌、ネギ、ショウガなどの薬味を混ぜておなかに戻して丸焼きにしたもの。
 
 とんでもなく旨いらしい。そんなこと言われたら食べてみんと気が済まん。

調理スタート!

表皮を洗う

 ハコフグの表皮は多角形のうろこに覆われて鎧のようになっている。毒のあるぬめりを落とすためタワシで容赦なくガシガシこすっていると美しい青の模様が薄れてしまった。ほどほどで良いかもしれない。

開腹

 肛門から調理ばさみを入れておなかを…開けない。鬼のように堅い。半分くらいではさみが刃こぼれして切れなくなってしまった。仕方なく包丁を研ぎ直して押し切る。

 おなかの板を外すとほとんど肝しかない。消化管を傷つけないよう先に取り出してから、巨大な肝を引っ張り出す。上の方で肝動脈をちぎるとすんなり摘出できた。ボウルにはった氷水に漬けておく。がその前に、はしっこを食べてみる。…なんか苦い。一日たって血が回ったからか、胆嚢を破ったのか、もともとの味なのか。

本体と同サイズの肝(右)

 脂は豊富で、水の上に脂が浮いて手もスマホもギトギトになった。浮き袋らしき薄い袋も引き剥がして中を丁寧に洗い、塩をふってクッキングペーパーを突っ込んで水気を取っておく。

味付け

 細ネギ、ショウガ、大葉をみじん切りにして味噌、みりん、酒と和えたものに、水気を切った肝の半分を混ぜる。もう半分はそのまま戻して、上に味噌和えを詰め込む。切り取ったおなかの板で蓋をして準備完了。

丸焼き

 本来は七輪で焼くらしいが、七輪もないし遠い炊事場のオーブンを使うのも面倒くさい。魚焼きグリルの網を取ってギリギリ高さが収まったのでグリルで1時間ほど弱火でじっくり焼いてみた。

味の感想

 命をかける人がいるのが頷ける美味しさだった。

 まず身が普通に美味しい。フグらしい弾力のある白身で、皮に包まれて蒸し焼かれたせいか旨みも水分もしっかり残っている。そこにねっとりとまとわりつく肝。脂が豊富なので焼くあいだにやや流れてしまったが、むしろ溶け出した分が下の身に染みこんでいる。懸念していた血なまぐささは微塵も感じられず、味付けしない方のストレートな旨みと味噌ダレとしての旨みの両方が味わえ、ふわふわぷりぷりの身と合わせて口に入れるともう箸が止まらない。半分くらいでやめるつもりが気がつくと三分の一くらいになっていた。残りは万一の時の毒の分析用に冷蔵庫へ。潜伏期間の24時間が経ってから食べた。冷めても美味い。

 かっとっぽを食べるという経験は果たされたので今回ほどの意欲は無いが、次の機会もあれば食べる気がする。そのくらいは美味しかった。死期が迫ったりして死にたくなればトラフグの肝を食べて死にたい。

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