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人はなぜ「ウソ」を付くのか-嘘という名の、生きる技術-

「ポイントカード、お持ちですか?」

深夜のコンビニで、またいつもの嘘をつく。「今日は忘れちゃって」。実際は持ってない。一度も作ったことない。なのに「忘れた」っていう嘘。この微妙な違いが、なんか人間らしくて。

考えてみれば、私たち毎日嘘ついて生きてる。「調子どう?」「うん、元気だよ」この会話だけでも、何個の嘘が含まれてるんだろう。元気じゃないけど、元気なフリ。聞きたくないけど、気遣いのフリ。

この前、電車で知り合いと目が合った。お互いスマホを見るフリして、気付かなかったフリ。この「フリ」という名の嘘。嘘つきなのに、なぜかホッとする。嘘をつけば嘘をつくほど、人間関係が円滑になっていく、この不思議。

友達と飲んでる時も、適度な嘘が必要。「うん、その話わかる」って言いながら、実は全然分かってない。でも、分かろうとする演技をする。この演技という名の嘘が、人間関係の潤滑油になってる。

そうか、私たちは嘘つきで生きていくしかないのかな。だって「ポイントカード持ってません」って正直に言うと、なんか負け組みたいじゃない?「忘れました」の方が、ちょっとだけマシな人生の設定。

深夜のコンビニで、また明日の嘘の練習をする。
...なんて書いてる時点で、もう嘘かもしれないけど。

優しさという名の嘘

「すごく似合ってますよ」

アパレルの友達が接客中に言ってた言葉。可愛くもない服を「可愛い」って言って、似合ってもない服を「似合う」って言って。後で「嘘つくの疲れる」って愚痴ってたけど、じゃあ本当のこと言えばいいのかって言うと、それも違う気がする。

「大丈夫だよ、絶対見つかるって」
失恋した友達への慰めの言葉。
根拠なんて何にもない。
でも、この嘘がないと、慰めにならない。

LINEの既読スルーを誤魔化す「今忙しくて」っていう便利な言葉。実際は寝転がってYouTube見てただけなのに。でも「暇だけど、返信する気分じゃなかった」なんて正直に言えるわけない。これも優しさの一種なのかな。

面白いよね。人を傷つけないために嘘をつく。その嘘がバレると人は傷つく。でも、最初から正直だと、もっと傷つく。この矛盾した方程式を、私たちは毎日解いている。

先日、彼女の手料理を食べた時。
「美味しい?」
「うん、すっごく」
まずかった。でも、その嘘が二人の関係を温かくした。

正直者が馬鹿を見るって言うけど、
本当は、正直すぎる人が周りを傷つけるんだ。

結局、優しさって、
適度な嘘で出来てるのかもしれない。
...って、これも誰かを慰めるための嘘かな。

自分を守るための嘘

「電車が遅延してまして...」

会社への遅刻の言い訳。実際は二度寝しただけ。スマホの画面に映る自分の顔が、嘘つき面してる。でも、「寝坊しました」じゃ、社会人として格好つかない。嘘の方が、なんか大人っぽい。

「体調悪くて...」
この万能フレーズ。
飲み会の誘い断る時、
仕事サボる時、
人に会いたくない時。
万病の元、嘘つきの知恵。

SNSの投稿も嘘まみれ。
「充実の休日」って書きながら、実は部屋で一日ダラダラ。
「素敵なカフェで」って言いながら、実は味も雰囲気も普通。
インスタ映えする人生の裏で、みんな必死に嘘の設定考えてる。

この前、履歴書書いてて気づいた。「志望動機」欄とかいう、公認の嘘つきスペース。「御社の経営理念に感銘を受け」って、経営理念読んでないのに。でも、これくらいの嘘、むしろ常識。正直すぎる奴は、面接も通らない。

自分を守るための嘘。
それって、弱さの証なのかな。
でも、強がりだけで生きていける人なんて、
この世にいないんじゃないかな。

会社でまた言う。
「はい、ただいま資料作成中です」
実際はネットサーフィン中。
この嘘が私を、
クビにならない程度の社会人にしてくれる。

...なんて言い訳がましい分析してる時点で、
また自分に嘘ついてるな。

嘘と誠実の境界線

完全な正直者として生きてみたらどうなるんだろう。

「今日の髪型、微妙だね」
「この企画、正直つまらないです」
「あなたのこと、実はそんなに好きじゃない」

...たぶん、一週間で友達も恋人も仕事も失う。
正直すぎる人間に、生きる場所なんてない。

先日、母から電話があった。
「最近、ちゃんとご飯食べてる?」
「うん、野菜も取ってるよ」
冷蔵庫にはカップ麺だけ。
でも、この嘘が母を安心させる。

嘘って、階段みたいなものかも。
一段目は「ポイントカード忘れました」くらいの軽い嘘。
二段目は「体調悪くて」という便利な嘘。
三段目は「愛してる」という重い嘘。

でも、どの段も必要なんだ。
この階段を上らないと、
大人になれない。

社会性って、要するに嘘つき技術。
「お世話になっております」
「いつもありがとうございます」
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
この美しい嘘の応酬。

正直に生きたい。
でも、嘘つかないと生きられない。
この矛盾を抱えながら、
私たちは今日も嘘をつく。

結局、誠実な嘘つきになるしかないのかな。
...って、これも何かの言い訳か。

深夜のコンビニで

また同じコンビニ。
また同じ質問。
「ポイントカード、お持ちですか?」

今夜は少し考えてから答えた。
「持ってないんです」

珍しく正直になってみた。
でも、なんだか心が痛い。
嘘の方が、人間らしかったような気がして。

レジの外に出る。
夜空には星が見えない。
光で汚染された空みたいに、
私たちの心も、
嘘で汚染されてるのかな。

でも、その汚染があるから、
この街は明るく見えて。
その嘘があるから、
人と人が優しく繋がれて。

明日からまた、いつもの嘘に戻るんだろう。
「忘れました」って言って。
「大丈夫です」って言って。
「頑張ります」って言って。

それで、この世界は回ってく。
嘘つきな私も、
嘘つきなあなたも、
みんなが嘘をつきながら生きてく。

コンビニの自動ドアが開く音。
誰かが入ってきて、
また誰かが「ポイントカード、お持ちですか?」って聞かれて。
また誰かが、小さな嘘をつく。

この夜も、どこかで誰かが、
生きるための嘘を探してる。

私は今夜、正直になれた気がする。
...って、これも嘘かもしれないけど。

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