日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション
MOT(東京都現代美術館)で、高橋龍太郎コレクション展を見てくる。
現代美術の世界では名の知れたコレクター。
その質量を今回目の当たりにして、さすがMOTでコレクション展を
やるだけはある、と思った。
MOTは都立の美術館ではあるが、日本の自治体としては桁外れの
都の予算規模を反映してか、かなりの規模の展覧会が多い。
今回は全館規模ではなく展示室の一部を利用している。
このコレクターは評価の定まりきらない現代美術をこれだけ継続して
その時々に現れる作家の作品を果敢に収集してきたということ。
その質量は圧倒的で、展示室が狭く感じる。
実際、数カ所でキャプションを読んだあとに、ちょっと下がって
作品を見ようとして人にぶつかることが2回ほどあった。
初期の草間彌生の作品はかなりしっかり収集しているが
あとは、知人が「まるで美術手帳(雑誌)を年代ごとに見ているよう」
といったとおり、その時々に脚光を浴びた作家の作品が並ぶ。
そのあたりが、特定の作家や時代、○○派、などと絞って集める
従来のコレクションとは違っている。
とはいえ、美術館が収集する計画的なコレクションとも違い
コレクターの好みというものも当然ながらあり、
ちょっと唐突に感じる部分もなきにしもあらず。
面白かったのは、会田誠の出世作「紐育空爆之図」の屏風絵の裏側が
見られるようになっており、なんと古いふすまの再利用。
わざわざこの作品だけ、ビール瓶のプラスチックケースの上に板を渡し
裏がよく見えるように展示している。いやチープでとてもよい。
その先にあるエルメスとのコラボ作品である村上隆の屏風絵
「ルイ・ヴィトンのお花畑」は、アイコンのお花がプラチナ箔の上に
ゴージャスに描かれて、裏にはエルメスのモノグラム柄が
まるで日本の伝統文様のように細密にきっちり描かれおり、
その対照に笑ってしまう。
会田誠の作品は、伝統的で絢爛な日本絵画風なイメージで描いたらしき
美少女とサンショウウオの「大山椒魚」もその向かいに展示されている。
そちらも裸の美少女とグロテスクな山椒魚
(波間に岩というよくある画題のパロディだろうか)
という画題をのぞけば、立派な応接室やロビーにお似合いの作品。
コレクターというと、ジョー・ブライスの名前が真っ先に頭に浮かぶ。
美術的な教育をうけたわけではない。
ただ、自分の感性を頼りに収集した充実した江戸絵画のコレクションは、
伊藤若冲の再評価にかかわるほどのものになった。
また、美術館の中で一定の照明の下、鑑賞するのが常だった日本の屏風絵や
掛け軸を、朝の光・夕の光・当時の夜を再現したロウソクの灯りで
見ることで新たな発見をすることにもなる。
日本人が近代になってすっかり忘れていた視点を、絵画に対する
飽くなき愛情から発見する、というまさにコレクターだからできた
ことだったと思う。
そして。
タイトルにあるとおり「日本現代美術私観」だ。
現代美術の流れをたどるなら、当然このあたりにはこの作家を、
という場所に必ずしもそれがあるわけではないし
購入のタイミングや予算もあるから代表作をがっつり収集できる
わけでもない(これは美術館も同じだが、ネットワークがあるので
展覧会の際にはある程度他美術館から作品を借りるという奥の手がある)。
また、通常の展覧会は、学芸があるテーマに添って作家を捉えなおす
ということで構成される。
が、今回は膨大な個人コレクションを、学芸がある視点で構成し直す
という展覧会になっており
なんというか、コレクターの意図(好み、感性)と学芸の視点の
二重構造になっている。
そのあたりが普通の展覧会だと思って見ると多少わかりにくいし、
名の知れた作品が多いだけにちょっとした違和感も感じる。
見応えのある展覧会ではあるが
見終わってどっしりと疲れてしまい、
この日は都民の日で常設展示は無料で観覧できます
と言われたのだが、すっかりエネルギー切れになる。
まずはお昼をとリニューアルしてかなり素敵になった館内レストランに
いくとすでに満席で24組ほどが待っている。
サンドイッチのあるカフェは、飲み物以外は完売。
今日はここまでかと、とぼとぼ歩いて地下鉄の駅に向かい
某所でようやくお昼。
ガス欠が解消したので気を取り直して
メゾンエルメスで内藤礼「生まれておいで 生きておいで」
のアネックス展示(東京国立博物館の展示は終了)を観覧。
案の定、写真撮影は禁止。
作品はひそやかでどんなに目をこらしてもなかなか見つけられず、
フロア図をもとに監視の係の人に教えてもらうこと数度。
このところ、展覧会をはしごして見る気力や体力がない。
銀座に来たからあともう少しギャラリーでもと思うも
気持ちが続かず、早めに帰路につく。
以来、コレクターとはどういうものか、とつらつらと
考えている。
資産家が美術作品を収集することは多いが
金融資産と異なり売却は難しく、そもそも保管や管理が難しい。
今回はひそかに保管の倉庫代や作品のメンテナンスを考えてクラクラした。
このコレクション(まだ拡大中)の行く末も、
ブライス氏のようにそれなりの美術館にまとまって売却や寄贈を
する、ということになるのだろうか。
そこは、今回MOTで展覧したことではあるしなあ、などと。
少々、下世話なことまで考えることになったのだが。