NHK日本の話芸  柳亭市馬「味噌蔵」

市馬さんの「味噌蔵」は何度か聞いたことがある。
この人は古典の正当派。口跡もよく、歌もうまい。
ご本人も歌うのがお好きなのか、この噺はよく高座にかけるのかも知れない。
いつぞやは三橋美智也の歌の入る噺を聞いた気がするのだが
どうやら「掛け取り」だったようだ。


NHKの番組でひさしぶりに聞く。
おおらかさを感じさせる芸風で口跡も声もよい。
この噺の主人公のように度の外れたしわいや(吝嗇家)でも
どことなく憎めず、場面によってはほのぼのとした風情も漂うのは
この人ならでは。
そのあたりが、心地よく聞ける理由なのかも知れない。


この時代、江戸は大都会で各地から人が流入したという。
そして庶民までもがそこそこ豊かな暮らし(農村などに比べて、だが)
をしており、稼いだお金を使って、たまには評判のよい甘味を買ったり、
流行の芝居や寄席にゆき、芝居小屋のある盛り場では
客目当ての屋台でちょっとした外食を楽しむこともできた、という。

というわけで、御店者(商家の奉公人)でも、この噺のように
ちょっとおごった料理を知っているし
お酒が入ると各自の出身地の民謡を歌ったり、踊ったりする
ということなのだろうが。
ご主人の留守に番頭さんの采配で手早く酒の肴を手配すると
おいしそうな料理が並び、各自がご当地の歌を順に歌う
なんだかとても楽しそうな宴会風景が広がる。
もちろん市馬さんが朗々と歌うわけだけれど
そこはそれ、ちょっとお酒が入って上機嫌な様子で
ちゃんと酔っ払いらしく歌っている。


最後には、旦那さんが帰ってきて皆で小言をくらうのだが
そこもさほど嫌みな様子ではない。
酔っていい気持ちになっている人間に説教しても仕方ない、
という旦那さんは、相変わらずケチな割になんだかおおらかに見える。


サゲは、伏線をいくつかきちんと回収して、ああなるほどね、
となっていて、なかなか洒落ている。
爆笑するような噺ではないのだけれど、全編に漂うのは
暖かくおおらかな風情、そしてなんだかとても楽しい。
はいった瞬間に「あー」と声が出るような温泉にはいって
身体がぽかぽか温まってゆるんだような、ちょっと幸せな気分になる。


いつの間にか協会の会長まで務めて
(その前には多少不遇の時代もあったように聞くが)
いろいろな蓄積が自信になって、もともとの芸風がさらに磨かれたのかも。
今回は、私も木戸銭を払っていないお客だけどね
(有料放送ではあるけれど)。
ゆっくり温まって、幸せな気持ちになって。
休日の午後に似合いののんびりした時間を、どうもありがとう。











 

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