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年末恒例と言えば

バレエなら「くるみ割り人形」
小説なら「クリスマス・キャロル」。


ディケンズの「クリスマス・キャロル」が表題だが
ワイルドの「しあわせな王子さま」と
ディケンズやワイルドの翻訳者の村岡花子さん自身の短編をいれて
雪の降る季節の小説として3編が編まれた本を見つけた。

装丁がなかなか素敵だ。
今頃の季節の、お話をあつめたということだろうか。
「クリスマス・キャロル」の表題に惹かれて手に取ったのは
この季節にちなんだ話をじっくり読みたかったから。
有名な小説なので、筋は知っているが今回あらためて読み直して
細部がこんなだったのか、と思う。


年末になると読みたくなる話、というのか
クリスマスが近づくと町中に流れるクリスマスソングのように
季節を背景にした話というものがある。


バレエなら「くるみ割り人形」
音楽とともに踊りをいくつか思い出す。
「クリスマス・キャロル」も映画版などのシーンを
思い出す人も多いのだろう。


この本を読んでいるときに
NHK「日本の話芸」で「芝浜」を聞く。
演者は立川談四楼さん。
はじめに師匠・立川談志さんと「芝浜」にまつわるエピソードを。
談志さんはこの話をよく高座にかけはしたが
女房がとっさの機転で夢にするのは小賢しくて好きではない
と言っていたとのこと。
それでもよく高座にかけたのは「儲かるから」。
年末に聞くのにちょうどいい、ちょっといい話として
お客さんの受けがよかったのだろう。
(後年、談志さんは「なんだかわからないけど夢にしちゃったの」
 という計算もなにもないかわいい女の話に変えていくのだが)


談四楼さんの「芝浜」は、25分くらいの短いもの。
女房が嘘をついてすべてを夢にしてしまったのは、
青い顔をして表に出たところを大家さんにみつかり
問い詰められ、そんなことはしては駄目だとさとされて
仕方なく・・・という体裁になっている。
このパターンは他に何人かの演者で聞いたものと同じ。
これなら、女房が自分の判断ですべてを夢にしたわけではなく
(談志さんの嫌いな小賢しい女にはならず)
また、嘘を打ち明けて謝る女房のお腹には赤ちゃんがいて
という落ち(さげ)になる。
お上に正直に届け出たあと、持ち主があらわれずに戻ってきたお金も
生まれてくる子供のために使います、ということでおさまりもいい。

なるほどねえ。


夜明け前の芝の浜。
波打ち際で顔を洗いうがいをして寝起きの顔をさっぱりさせたら
のんびり朝日があがるのを待ちながらキセルを一服つける。
浜辺に登る朝日の美しさ、冬空の寒さの中で澄んだ空気。
このあたりは談志さんと同じで、冬の浜辺の情景を描写して素晴らしい。


落語を聞き始めた頃、
古典落語の下げ(落ち)は演者の解釈によってかわると知って
びっくりした記憶がある。
解釈次第で変えてもいいのか、古典なのにと。
場合によっては結末も意味合いも変ってしまうのに、と。


今では、気の利いた下げに至るまでの
ちょっとした企みのようなものが楽しみでもある。


年末恒例の季節の話。
そういう楽しみ方は確かにあるのだろう。









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