3話「ナイト漂流記」

「ルトルさん!いい加減にして下さい!」

聞き耳を立てて分かったことがある。
ルトルは他の住人とめちゃくちゃ揉めてる。原因は俺のこともあるっぽい。

立て続けに、ルトルに文句を言う声が聞こえてくる。
ルトルがいなきゃ、お前ら全員死んでたのにな。
ま、世の中そんなもんだぞ。ルトル。


今日も飯を持ってくるのは、ルトルだ。
「塗装終わったし、今日の夜ここを出てって良いよ」
「ああ。…なあ、ここは女ばかりなんだな。それで、あんたはめちゃくちゃ嫌われてる」
「気になる?そうなんだよねぇ。こんなに頭良くて可愛いのに」
「なぁその浮いてるのどうなってるんだ?」
相変わらず、重力を無視してぷかぷかと浮いている。宇宙の無重力空間での動きのようでもない。
自由自在に浮かんで好きなように動いている。
「内緒」

「暇だから、土産話にここのこと聞かせてくれよ」

「うーん。ここは元々、7カ国同盟所属のコロニーだったんだけど、まぁ軍に襲われ、老人以外はほぼ持ってかれちゃったのよ。まー戦争してんだから、殺人に略奪に捕虜にレイプは当たり前だね。そんな中残った私のお爺ちゃんが何人か子供を隠してくれて、私は今ここにいる訳よ。で、唯一技術者の私は、色々あってここの人達に嫌われてるんですね〜」

「さっきの女の集団は?」
「耳聡い。あれは難破船の子ら。女学生しか乗ってなかったみたいで。故郷に帰してほしいって言われてるんだけど、船は故障してるし、その故郷とも連絡が取れない。帰さないために私がわざと工作してるとかしてないとか、まぁとにかく女学生達からも嫌われてるんですね〜」
「はーん」

「あなたを牢屋から出してた〜なんてバレたら双方からリンチものだね」
「は?俺が逃げたあとどうすんの」

「ハオリャンは逃げる方なんだから、そんなんどうでもよくない?」
「そりゃあ…」


夜。
「じゃーん!ご希望通り黒っぽくしてみた!全身真っ黒はあれなので所々かっこ良くしてるよ!」

「おー!いいじゃん…って、隣の機体は」
昨日は閉じていた隣のハッチに機体があった。
軍系の今までの型とも、同盟の最新鋭の型とも違う。
色々な戦場に出たが見たことがない。

「あ〜これ?最初、軍の人が来たときこれが目的なんだと思ったんだよねぇ。コロニーを藻屑にしたってこの機体なら耐えるし」
「は?そんな耐久性ある訳ないだろ?」
「冗談冗談」

警報音が鳴る。

「お?単騎で…これは軍の…ハオリャンと同じ機体に塗装」
「は?ここどんだけ離れたと…どれ?」
タブレットを見ようとすると、スッと遠ざけられる。

「私が出るから、ハオリャンはさっさと逃げて。じゃ、お元気でね」

ルトルはフワーッと浮くと、先ほどの未知の機体の方へ行こうとする。
俺は、その足を掴む。

「待て!俺が出る!」
「は?」
「あれは俺の元同僚だ。話せば分かるかもしれねぇ」
「何で?」
「俺の腕は見ただろ?技術者がパイロット兼任すんな。いないなら、俺が出る!」
「…だったら、こっちの機体に乗ってくれる?なら、いいよ」
「あ〜?何でだよ」
「嫌なら結構」
「わかった!操縦はプロトタイプにプラスアルファってだけだろ」
何でこっちが必死に頼み込む感じになってんだ。
「OSが違うし全然違うけど。根本は同じかな。君なら出来るよ」
「よし、出るぞ」

機体に乗り込む。
『声帯登録。名前をお願いします』「うわ、喋った…。レイ・ハオラン!」
『ハオランさん。整備士より出撃用意が整ったとの信号です。出撃しますか?』
「ああ、出る!」


軍機の中身。
ハオランの元隊員の少年リーエ。
(私はハオランが軍に認められるためにどれだけ努力していたか知っている。技術面で誰も敵わなくなってもそれでもずっと頑張ってた。毎日夜遅くまで訓練してたし昇進の話当たり前だと思ったし本当に嬉しかった。なのになんで!裏切ったなんて、嘘に決まってる!)


リーエを迎えるハオラン。
(というか、機体あって乗れる奴がいて、この前は何で出てこなかったかと言えば、俺らが勝手に同士討ち始めたからで、そういうのルトルはほくそ笑んで見てやがったんだろうな。そういうところが、住人に嫌われる所以だろうよ。)

しかし、この機体は何だ?
パラメーター値の上限が最高級軍機の倍はある。
細部まで細かくタイムラグなしに動く。機体とひとつになれるような錯覚を起こしそうだ。
俺は、こんなお宝見て、そこそこの手切れ金で手を引くような謙虚な男ではない。
がめつい男だ。
この素晴らしさを知ってしまったからには、正式にパイロットとして雇ってもらえねぇかな。
まずは、腕見せとかないと。

「リーエだな!お前の性格からして勝手な行動で来たんだろ!試し斬りだ!ぶっ殺してやる!」

リーエ「手足もいでも連れて帰るから!」

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