1話「ナイト漂流記」
裸体の女「レイ君」
ハオラン「う…」
目を覚ますと、甘ったるい香水の香りが胸を焼く。女が顔を覗かせる。
「起きた?今日、領地拡大策の任務でしょ?」
上体を起こす。
「はい」
「ちょっと、無理させ過ぎちゃったかな?」
「いえ、これで頑張れるってもんですよ」
長いキスをするハオランと女。
「あーったく、しつけーババァめ」
口を拭う。
「プロトタイプ2520。レイ・ハオラン出撃します」
殲滅戦だ。
攻めてきた敵も、俺らも相手を全て殺す以外に戦場を離れることは出来ない。
「沢山、殺したから〜沢山狙われる〜…くっそ!」
後ろから前から上から下から、弾切れの機体で特攻までしてくる。
タイミングを外したら終わりな神の領域の身のこなしで、俺は何とか包囲網を抜け、全てを撃ち落とす。
「天才じゃなかったら死んでたな…」
基地に戻ると、ニヤケ面の中年男が出迎えてくれた。
仲間の死体は持ち帰らない。宇宙が俺らの墓場だ。
「チェン指揮官の作戦は本当に素晴らしかったです。おかげで、精一杯力を発揮出来ました」
戦場に出て来もせず、通信で偉そうなことを最初に言ったきりの基地狸。
だが、胡麻を大量生産する勢いで擦る。
「そうか?それはよかった。君の腕も大したものだよ」
別に本気で喜んでいる訳ではないだろう。ゴマを擦れるか試しているのだ。
そんな立ち話に割って入る女が1人。
「お言葉ですが、チェン指揮官の作戦は修正の余地があると思います。レイ班長が力業で乗りきりましたが、どう考えても配置に」
俺は横から女の頭を思いっきり殴る。
「指揮官。申し訳ありません!」
「…あぁ、教育はしっかりな。では」
女をもう一度殴る。
「反省したか?」
「正しいことを言うことの何がいけないんでしょうか?命に関わることですよ」
「正しいこと?上の機嫌を損ねたらお前の上司である俺の責任にもなるし部隊も目をつけられる。そうしたら、次こそ死地だ。仲間を危険にさらすことが正しいことなのか?」
「しかし、誰かが正しいことを主張していかなければ間違ったことは間違ったままです」
「それが通用すんのはテメーのお花畑頭での話だろ。ここは夢の世界じゃねぇ…もういい。下がれ」
「いえ、」
「下がれ!」
部下の少女「やりますか?」
ハオラン「ああ」
部下の少年「レイ班長は優しすぎます。言っても殴ってもダメなら当たり前です」
「あんなの他の隊なら初日に歓迎を受けますよ。ケチが付く前にやるべきでした」
「そうだな。次の作戦でやる。実行はお前らに任せた」
「「リャオチェっ!」」
女は、事故に見せかけて部下に殺させた。
そうやって俺はここで生き残ってきた。
会議室。
「量産機一機でここまでの選果を上げるとは」
ハオランと寝ていた女「彼ほどの腕なら、ひとつ階級をあげてもいいのでは?」
「…しかし、出自がダストチャイルドだ」
「まぁそこよね。調子に乗られても困るし。でも、彼が反旗を翻すことはあり得ないわ。そういうのを増やすのも士気のためでは」
「うぅん…。腕があまり良すぎるのも考えものだな。まぁ特別に今回は良いとしよう」
「そうね」
ハオランの小隊部屋。
「ハオラン!スゲーな」
「当たり前よ!もうハオランじゃなくてレイ准尉よ!」
「うちらの中から階級を貰える奴がでるなんてな!」
「これも全部ハオランの実力よ!」
ハオラン「言い過ぎだって」
ユーゼァ「良かったな。ガキのお守りもこれで終わりだ」
深夜。
ハオラン「これから任務か?」
ユーゼァ「お、あ、はい!」
「いいって…ガキの頃からの付き合いだろ。それにまだ気が早いって」
「まぁ…な。けど、ハオランがいなけりゃ俺らもうとっくに死んでた。感謝してもしきれないよ」
「その任務俺が行くよ」
「いや、そんなこと…」
「目の隈ヤバイぞ。ちゃんと休んどけ」
「…サンキュ。本当ハオランにはおんぶにだっこだな」
ハッチに行くと、いつも嫌味を言ってくるオッサンがいた。
「なんだ、レイか。昇進するそうじゃないか」
今日はどことなく雰囲気が柔らかい。
「はい。ワン隊員が体調不良のため、大尉に許可をもらい代わってもらいました」
「お前が来る必要もないだろうに。奇特な奴だな。今日は…廃棄されたコロニーの破壊。別にそんなのほっときゃいいのになぁ。宇宙ゴミが増えるだけだ。まぁ…変なのに住み着かれても困るって話だろうが」
「はい」
かつて人類が住んでいた地球は、もう生物が住めるような環境にはない。
まず2つの国が地球を捨て、火星に移住した。
その後、地球に留まり奮闘していた各国も諦め、コロニーを作りそこで暮らすようになる。
太陽系の外に住み初めて分かったこと。太陽系の外には、生物のような何かオクトパスがいた。
船やコロニーに塵のように集まり蛸のように張り付き、どんどん大きくなり呑み込んでしまう。
火星軍は他の国々に太陽系から出ていくよう命じた。
ここで、宇宙での領地争いが起こる。
それから、ずっと冷戦に近い戦争時代が何百年と続く。
地球にいた頃にも人類は戦争をしていたらしい。
時が経てば熱は冷え、隣人と手を組むこともできた。
宇宙はあまりに広い。仲違いをすればそれまでになってしまった。
3時間ほど、機体で移動し到着する。
小さくも綺麗であまり見たことのない型のコロニーだ。
「ここが…」
「なんだか割りとキレイなところだなぁ勿体ないが任務だ。しょうがない。定位置につけ。ポイント277スリーY240X5O-130。807ワン同X78」
「コロニー内最終確認と指示にはありますが」
「いや、いい」
「?…リャオチェ(了解)」
「開始時刻まで持ち場で待機」
ピピッ
「なんだ…?手打ち信号?」
『まだころにーにはひとがいます』
イタズラか?暇つぶしに返事をしてみる。
ピッピッ
「…何人だ?残っているなら、早く退避を」
ピピッ
『いちまんにん』
「まさか!?民間人が1万人?」
あの中尉はものぐさだが、軍規違反するようなタイプじゃない。
それがコロニー破棄の規則である確認をしなかったのは、軍からの指示があったからか。
あえてしない。だったら本当に一万人もの民間人があの中に…。
「中尉。手打ち信号を受信しました。まだ民間人がいる可能性があります。やはり確認だけ自分が」
「いいと言っただろ」
確認をここまで拒むのはマジってことか?
こんなイタズラかもしれないもののために…
目の前に立つ。
「何をしている?」
「確認をさせて下さい」
「いい加減にしろ。今なら見逃してやるからバカな真似は止めろ」
「ここには二人しかいません。どちらが強いか試してみますか?」
「そんな量産機で勝てると思ってるのか?お前、頑張ってきたんじゃないのか?いいのか?こんなことで捨てて」
「うるせーハゲ」
通信を切る。
俺がこのハゲに勝つとして、このコロニーが軍を敵に回すのはマズイ。
殺さずに通信を破壊し自動運転で帰還させるのが最善かもしれない。
本来、仲間殺しは極刑。地の果まで追い回される。かは、このハゲだと微妙なところ。
下士の命なんてものは犬畜生以下だ。
「あーくそ。本当に人なんかいるのかよぉ!」
特攻要員の量産機にはない、電磁バリア機能を1つ1つ剥いでゆく。
ハゲも中々頑張って、バリアの合間からビームを撃ち込んで来るが、避けるのは大の得意。
避けるついでに、最後のバリアを破壊し、通信機のメイン装置あるコックピット横をぶっ壊す。
これで、ハゲは彷徨う宇宙ゴミだ。
帰還系統が生きていれば、基地に帰れるだろう。どのくらいかかるかは知らんが。
コロニーに向かう。
管制塔はあそこか。
花の舞う場所へ降り立つ。
外へ出ると防護服を着た奴が手を振っていた。
「先ほど信号を送らせていただいた者です。ありがとうございます!軍機同士争ってましたが…貴方は軍の方ですか?」
声からして女か?
「残念だが軍はお前らを殺すつもりだ。俺は軍を裏切った形だ」
「なんと!」
「それより、これは船型のコロニーだろ?座標を移せ!中枢システムはどこだ?!」
「こっちです!が、八方塞がりですよ。ここに居たら軍に、なので太陽系の外に行くしか…」
太陽系の外なら、軍からは完璧に逃げられる。
が、オクトパスを甘く見たら即効死ぬ。
同盟国達のようなオクトパス対策もこのコロニーでは不可能。
今移動するとしたら。
検索検索検索。
「セーフティをぶっ壊せ」
「わかりました!書き換えます!」
「ここら辺は重要施設がない。警備が手薄なはずだ。絶対ではないが、今移動するなら軍のテリトリーに一旦潜り込んだ方がいい。案外、太陽系は広いからな」
テレポート開始。
「やりましたね」
女は頭部の防護服を脱ぐ。
「これで、ひとまず安心…」
黒髪の綺麗な少女だった。
見惚れる。
「それじゃ、両手をあげて下さい?」
銃を突きつけられる。
終